eぶらあぼ 2015.7月号
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65ティン・ヘルムヘンのピアノも心強い。これはヴァイオリン音楽を愛する者なら、絶対に逃せない公演だ。CDデビュー記念 リサイタル7/28(火)19:00 東京文化会館(小)問 コンサートイマジン03-3235-3777http://www.concert.co.jpCD『ジェイ・ファースト』日本アコースティックレコーズNARD-6001¥3000+税7/21(火)発売岩崎洵じゅんな奈(ピアノ)ウィーンで培った音楽の息づかいを大切にして取材・文:長井進之介Interview ウィーン国立音楽大学大学院に在籍しながら国内外で多彩な演奏活動を展開する岩崎洵奈。アルゲリッチから「自然で美しい演奏」と高い評価を受けた2010年のショパン国際ピアノコンクールでのディプロマ賞をはじめ、多くの国際コンクールでの入賞歴を誇る。7月にリリースするデビュー・アルバムでは“舞曲”が一つのテーマとなっている。 「実際にバレエを踊っていたこともあって、リズムの重要性をいつも意識しています。また、ウィーンでの滞在の中で王宮の舞踏会に参加した体験も今回のプログラムに活きています。ウィーンの人々は、1年を通じて舞踏会を凄く楽しみにし、またこの伝統を大切にしていますが、人間の持つ鼓動と、ワクワクする気持ちには共通するものがあると思うんです」 彼女の重要なレパートリーであるショパンの作品はオペラからの影響が強いこともあり、呼吸や人間らしさについても強く意識するという。 「アンサンブルを通して、歌手の呼吸と発声の関連性を意識する機会が多いです。また、ウィーンで師事している先生がテンポの話をされる時、演奏は人間が行う以上、音楽も生きものなのだと。そして、テンポではなく“脈拍”という言葉を使われるのが強く印象に残っています」 岩崎にとって、ウィーンでの日々は様々な発見をもたらしてくれるという。クライスラー(ラフマニノフ編)「愛の悲しみ」(Liebesleid)は、言葉の捉え方の違いを意識したことで、解釈にも変化が生まれた。 「日本語は、”悲しみ”というと画一的なイメージになってしまいますが、ドイツ語の“Leid”という言葉には大きな違いがあります。ドイツ人は悲愴感や絶望を感じるのに対し、オーストリア人にとっては、どこか望みがあり、憧れを含むものなんです」 デビュー・アルバム発売の1週間後には東京文化会館で記念リサイタルを開催。CD収録曲に加え、バッハ「フランス組曲」第5番、モーツァルト「トルコ行進曲付き」ソナタも演奏する。 「舞曲で構成された『フランス組曲』は大切なレパートリーの一つですが、ウィーンでバロックダンスを座学と実践で勉強したことで、新たな発見が沢山ありました。『トルコ行進曲付き』をリサイタルで弾くのは初めてですが、リズムが重要な役割を持つ楽しい曲なので、私の演奏で皆様にも楽しんでいただきたいです」 さらに、リサイタルではショパン「夜想曲」(遺作)を披露。 「ずっと演奏してきた大好きな作品です。旋律を美しく歌うために“呼吸”を強く意識しますから、これまでの歌手との演奏やディスカッションが活きてきます」 CD、リサイタル共に、岩崎が長きにわたってあたためてきた作品への想いが詰まったプログラムとなっている。力強いリズムに満ちた作品と、彼女の演奏に通う“脈拍”や”呼吸”。それらの調和をぜひ体感してほしい。7/31(金)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com〈日下紗矢子 ヴァイオリンの地平 2〉 古典 日下紗矢子×マーティン・ヘルムヘン深く抉る「古典」の真価と進化文:柴田克彦 日下紗矢子は、いま最も聴くべきヴァイオリニストの一人である。特にトッパンホールでのシリーズはそうだ。ベルリン・コンツェルトハウス管と読響のコンサートマスターを兼務しつつ、充実したソロ活動を行っている彼女は、2010~12年同ホールの『エスポワール シリーズ』で顕著な深化を披露し、昨年から〈日下紗矢子 ヴァイオリンの地平〉シリーズを開始した。日下は、芯のある音と豊かな表現力をもち、虚飾を排して楽曲の本質そのものを聴かせる稀有の奏者。昨年の「バロック」では、モダン楽器を用いながら、造型確かな説得力抜群の名演を展開した。となれば今回の「古典」にも大きな期待がかかる。モーツァルト2曲、ベートーヴェン、シューベルトにパガニーニを挟んだ、約10年ごとの作品が並ぶプログラムは、古典の進化と作曲家の個性を同時にあぶり出す、意味深い内容。この演目に、ドイツの名手マー日下紗矢子 ©Kiyoaki Sasahara

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