eぶらあぼ 2015.6月号
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70CD『バッハ:クラヴィーア練習曲集 第3巻』オクタヴィア・レコードOVCL-00567(2枚組)(SACDハイブリッド盤)¥4200+税吉田 恵(オルガン)バッハが理想としていた音を追い求めて取材・文:寺西 肇Interview バッハの作品演奏へ精力的に取り組むオルガニストの吉田恵が、3枚目となるアルバムで「クラヴィーア練習曲集 第3巻」全曲に対峙した。バッハにとって最初の出版作品で、「ドイツ・オルガン・ミサ」とも呼ばれる大作に、オランダ・ズヴォレの聖ミヒャエル教会にある銘器シュニットガー・オルガンを駆って挑んだ意欲作。「少しずつ作品に近づけている実感がある。作品が持つ本来の美しさを堪能しながら演奏することが出来ました」と吉田は語る。 「常に恐ろしく感じるのは、以前に演奏した時に見落としていた部分を、再演の都度、発見すること。頻出する同じフレーズが微妙に変化する場面や、似たような転調なのに行き着く先が変わること、コラールの歌詞に当てられた音型の解釈など、作品のすべてを把握したいと願い、今度こそ! と思いながら演奏しています。それでもクラヴィーア練習曲集に関しては、年を経るごと、少しずつではあっても、作品の本質に近づけているようにも感じます」 巨匠カール・リヒターのオルガン演奏に憧れ、東京芸大と同大学院を経て、ハンブルク音大に学んだ吉田。2010年には、新バッハ全集によるオルガン作品全曲演奏を完遂。デビュー盤では有名曲を中心に、第2弾では「シュープラー・コラール集」を核に据えた。 「1枚のCDを通して聴くと演奏会に行った感覚になれること、さらに、リリース順に聴いても、シリーズとしての感覚を持てるよう、こだわりました。次回は、ソナタやコンチェルトなど器楽曲的な性格を持つ作品を考えています」 一連の録音に使用しているのは、北ドイツの名匠アルプ・シュニットガー(1648~1719)が、生涯の最後にオランダへ遺した銘器。 「この楽器にこだわるのは、バッハ自身が北ドイツのオルガンに憧れていたから。バッハが少年期に北ドイツで聴いた音色が、彼が生涯にわたって理想としたオルガンの礎となっています」 オルガニストは楽器を持ち運べない“宿命”にある。 「初めてのオルガンに出会うときには、いつでも心が踊ります。弾き込んで楽器との距離が縮まった時に感じる充足感は、言葉に出来ない感覚です。ヨーロッパのオルガンは教会の中で発展する一方、街の誇りでありシンボルでもありました。日本でホールに設置されているオルガンも、それぞれの地域に愛され、長い時をつなぐ楽器になって欲しいと切に願っています」 それでは、今後の夢は? 「バッハの全曲演奏が夢だと思っていた時期もありましたが、完走した後、それは夢ではなく、きっかけだったと気づきました。今は、自分が理想とする演奏、完璧な演奏に、出来うる限り近づきたいと願うことが、私の夢だと言って良いのだと思っています」5/28(木)19:00 東京文化会館問 キョードー東京0570-550-799http://www.billboard-cc.comビルボードクラシックス 八神純子 プレミアム・シンフォニック・コンサート数々のヒット曲をオーケストラと共に文:宮本 明八神純子 透明な美声としなやかで力強い歌いぶりで日本のポップ・シーンをリードした八神純子が自身初のオーケストラ共演。山下一史の指揮、日本フィル、東京文化会館というクラシック界の王道的な豪華な舞台が揃った。1980年代に数々のヒット曲をとばしたあと、結婚、米国移住、出産を経て長く第一線から退いていた時期もあったが、3年前に本格復帰、衰えない健在な歌声を聴かせている。 予定曲は、「みずいろの雨」(1978)、「ポーラー・スター」(79)、「Mr.ブルー ~私の地球~」(80)、シングル・カットされなかった「夜間飛行」(79)、「夢みる頃を過ぎても」(82)など、ゴージャスなオーケストラ・サウンドをまとった八神ワールドに心ゆくまで浸れるはず。青春の思い出が重なる世代は落涙必至。もちろん当時を知らない若い世代の人たちも、月並みな言い方だが、聴けばわかる!
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