eぶらあぼ 2015.6月号
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63ラルス・フォークト(ピアノ)円熟した音楽の彫琢を、示唆に富んだプログラムで味わう文:柴田克彦アフターヌーン・コンサート・シリーズ 2015/16前期 Vol.3 音楽で“恋”する午後甘美な時間に身をまかせて文:東端哲也6/29(月)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp7/8(水)13:30 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp ラルス・フォークトほどのピアニストが、日本で12年もリサイタルを行っていなかったとは! 彼は、昨年末のヤルヴィ&ドイツ・カンマーフィルの『ブラームス・シンフォニック・クロノロジー』における2曲の協奏曲で、剛毅かつ陰影に富んだソロを聴かせたばかりだし、 世にラヴ・ソングの名曲が溢れているように、クラシックの世界にも“愛”にまつわる数多の楽曲が存在する。そんな甘くて切ない名旋律ばかりを集め、日本が誇る4人のプレイヤーが、様々な編成によって奏でてくれる夢のコンサート『音楽で“恋”する午後』が開催される。 ピアノを担当するのは、ポーランド政府よりお墨付きを貰うほどの“ショパン弾き”の名手にして、ショパンピアノ作品全曲コンサートを開くなど、精力的に活動している横山幸雄。得意の「別れの曲」に始まり、元々はドイツの2013年にノリントン&N響、12年にハーディング&新日本フィルと共演するなど、日本でもお馴染みの存在だ。しかしこの6月のリサイタルは、03年9月以来となる。ならば当然、ピアノ好きならずとも見逃せない。 1970年ドイツ生まれの彼は、90年にリーズ国際コンクールで第2位を獲得後、ラトル、ヤンソンス、アバドや、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管、パリ管などと共演。特にベルリン・フィルとは、2003/04シー詩人フライリヒラートによる歌曲として書かれたリスト「愛の夢 第3番」などで語りかけた後、室内楽での評価が特に高いチェロの上村昇との共演で、エルガー「愛の挨拶」、カサド「親愛なる言葉」、フォーレ「夢のあとに」などで甘美な世界を紡ぎ出す。また都響のソロ・コンサートマスター、矢部達哉と「3つのロマンス 作品94」、ヴィオラの第一人者である川本嘉子と「トロイメライ」や「献呈」など、シューマンが愛する妻ズンに同楽団史上初の“ピアニスト・イン・レジデンス”を務めて以来、親密な関係を築いている。さらに1998年からシュパヌンゲン音楽祭を主宰し、来シーズンからノーザン・シンフォニアの音楽監督に就任するなど、活動範囲は幅広い。 演目は、シューベルト「ソナタ第19番」、シェーンベルク「6つのピアノ小品」、ベートーヴェン「ソナタ第32番」。ウィーンの大家が最晩年に残した2つの“ハ短調”ソナタに、同じウィーンで調性を忌避した作曲家の極小作品を挟んだ、きわめて興味深いプログラムが組まれている。この内容は、深い解釈と多様な表現力をもって真摯に楽曲に挑む彼に相応しく、またそれを800席の紀尾井ホールで聴けるのも嬉しい。40代半ばの脂の乗った実力者のピアノを、この機会にじっくりと味わいたい。クララに込めたありったけの愛情も披露される。更には、4人揃って演奏するピアノ四重奏曲も、やはりシューマン作品。クララと結ばれた幸せの絶頂期に書かれたとされるこの曲、聴き所はこちらの顔が赤らむ程に一途な想いが溢れ出す第3楽章の「アンダンテ・カンタービレ」かも。ともあれ夏の日の昼下がり、19世紀に音楽の巨匠たちによって生まれた愛の調べに、ゆったりと身をまかせてみては?©Neda Navaee上村 昇矢部達哉 ©大窪道治川本嘉子横山幸雄 ©SMIJ

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