eぶらあぼ 2015.6月号
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第8回美しく闇も蠢く古都プラハでのダンス・フェス 百塔の街、と謳われる、チェコのプラハに行ってきた。カフカ、チャペック(劇作家で、「ロボット」の命名者)、シュヴァンクマイエル(ダークな人形アニメの巨匠)といった、ちょっと頭のおかし…いや複雑な内面を描くアーティストが多い。そんなプラハで開催されたダンス・フェスティバル『チェコ・ダンス・プラットフォーム』が今年で21回目を迎えた。芸術の都だけあってダンサーのレベルは高い。それも「高速に強く」という直線的な進化ではなく、大きく相手を受け入れる「許容量のある豊かさ」を感じさせた。それでいて発想は結構ブッ飛んでいるものが多く、じつに面白かった。 スピットファイアー・カンパニー『Sniper's Lake』もそんな作品の一つ。床には赤い照明で道が描かれ、ダンサーは右から左へひたすら走り続ける。まるで何かから逃れるかのようだな…と思っていると、なんと客席の中に本物のスナイパーがいて、ずっと銃でダンサーを狙っているのである!実際に撃つし(笑)。だが全体的には極めてインテリジェンスを感じさせる構成で、突き抜けた発想と美的センスが光っていた。 Wariot Ideal『GundR』は、実在の兄弟登山家が、片方を山に残したまま生還した話に基づく。山登りのシーンを、アクロバットなどで使うロープワークで表現しているのがいい。特に天井が高い劇場なうえ、レンガの壁にはフックが埋め込まれていて、本当に絶壁を登るような演出になっている。なんと「劇場内なのにサイトスペシフィック」という作品だった。 今回最も話題を呼んだのはDOT504『Collective Loss of Memory』という男5人のパフォーマンスである。のっけから総合格闘技のマウントの取り合いをやっているなど、全編に男性的なマチズモが漂う。ひとたびユニゾンで踊り出せば、声を掛け合い体育会系の一体感が生まれる一方で、差別やイジメもある。そんななか象徴的なのはダンサー同士の会話の最中に股間からつかみ出される大きなディルドだ。立派だが作り物のペニスは、「ときに暴力を正当化し、賞揚する『男らしさ』なんぞというものは、しょせんフェイクに過ぎない」ことを端的に示すものだ。最後には実際に起こった凄惨な暴力事件の映像が流される。暴力は決して美化できないが、実社会には溢れていることを鋭くえぐり出していた。 意表を突かれたのはVERTEDANCE『CORREC TION』。7名の男女が横一列に並ぶ。1人が隣の人に触れると、動きが波のように伝わっていき、倒れそうになる。が、倒れない。靴は床に固定されていて、大きくグラインドできるようになっているのだ。シンプルなやり取りだが段取りが実によく練られていて、「ダンス」としての魅力を獲得していた。 いま中欧V4諸国(スロヴァキア、チェコ、ポーランド、ハンガリー)では「Keep PACE with Japan」というプロジェクトが進んでいる。「日本と足並みをそろえる」という意味だが「PACE」は「中欧の舞台芸術(Performing Arts of Central Europe)」の略で、これを一丸となってアピールしていこうというもの。北欧、東欧、中欧はこれから日本でもガンガン知られてくると思うぞ!Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお258

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