eぶらあぼ 2015.5月号
67/225
64©Xu Bin神尾真由子(ヴァイオリン)×ジャン・ワン(チェロ)×キム・ソヌク(ピアノ)スーパー・トリオ6/3(水)19:00 紀尾井ホール問 アスペン03-5467-0081 http://www.aspen.jp他公演5/29(金)青山音楽記念館バロックザール、5/30(土)松江プラバホール、5/31(日)兵庫県立芸術文化センター、6/1(月)アルカスSASEBO(中)問 アスペン03-5467-0081ジャン・ワン(チェロ)日中韓のスターが魂を交える渾身の三重奏取材・文:柴田克彦Interview 中国が生んだ世界的チェリスト、ジャン・ワンが、今年5~6月、人気ヴァイオリニスト、神尾真由子、リーズ国際コンクールで最年少優勝を果たした韓国の俊才ピアニスト、キム・ソヌクと組んだトリオの公演を行う。 この企画は、彼の声がけで実現した。 「神尾さんは、いしかわミュージック・アカデミー、ソヌクさんは韓国の音楽祭で、それぞれ素晴らしい演奏を聴き、一緒に組もうと考えました。ここ2~30年の間にアジア人の音楽家は欧米で大きな存在になっています。日本だけでなく、韓国のレベルも上がり、中国も追いついてきました。そこで各国の演奏家が集まり、アジアを統合した市場を作るのは、意味のあることだと思います」 日中韓のコラボは「意図的」であり、「この3人で3ヵ国をまわります!」と力強く話す。揃っての共演は初めてだが、2人への期待も大きい。 「私は、火のように燃えた情熱を露にする神尾さんの強烈さが大好きです。またソヌクさんの演奏は、大きく堂々としていて品格があります」 ピリス、デュメイとのトリオでも知られる彼は、ピアノ三重奏に独特の魅力を感じている。 「弦楽四重奏は、経験から結果が生まれますので、ソリストが急に組むことは滅多にありません。しかしトリオは違います。ピアノが厚みのあるベースを築いてくれますし、憧れている人と組んで演奏できる自由があり、スリルや驚きがあります。このアーティストが一緒に演奏したらどうなるだろうか? というのは、興味深い想像だと思いませんか? 個性が集まると化学反応を起こし、相手によって演奏も変わります。それを聴くのは、とても楽しいことではないでしょうか」 今回は、チャイコフスキーの大作「偉大な芸術家の思い出に」とベートーヴェンの「幽霊」がメイン・プログラム。 「チャイコフスキーの曲は亡き友人のためのメモリアルであり、強く深い感情が込められています。非常に複雑で、弾き終わると、まるで美術館を全部観て回ったような疲労感を感じる作品ですが、それだけに素晴らしい。彼の中でも名作中の名作です。ベートーヴェンは全く反対。チャイコフスキーは嘆きや悲しみを前面に出しますが、ベートーヴェンの考えは全て内面にあり、感情を制御しなが5/30(土)14:00 紀尾井ホール問 コンサートイマジン03-3235-3777http://www.concert.co.jp奥村 愛(ヴァイオリン)ヴァイオリンで綴る「一日」文:渡辺謙太郎©Wataru Nishida 何ともユニークな、そして奥村愛らしいリサイタルだ。親しみやすいプログラムと自然体のトークで多くのファンを魅了する彼女が、今回のテーマに選んだのは『一日』。最新盤にも収録されているエルガー「朝の歌」で清々しく幕を開け、シュニトケやイザイの名曲を経て、ドビュッシー「美しき夕暮れ」へ。終盤には、ピアソラ「ナイトクラブ1960」などで、夜の闇と艶やかなネオンを巧みに描き出す。今回は共演のピアニストにフランス音楽に造詣の深い名手・藤井一興を迎えることもあり、ラヴェルやドビュッシーは特に楽しみな演目。また、プログラム中盤では、加藤昌則の新作「燻る煙と共に Romanza del passato」を披露するのも聴きどころだ。過去にピアニストとして奥村と度々共演し、彼女をイメージした「breezing air」も作曲している盟友が、今回はどのような作品を捧げるのか。実に興味深い。ら、反逆心をもって運命と闘います。今回の作品にも、人間の心を自由にするための“闘う精神”が強く表れています」 彼個人としては「中国での活動が非常に増えてきた」という。 「立派なコンサートホールが増えていますし、クラシック音楽を初めて聴く人も多く、聴衆も若い。中国の人々が音楽を楽しむ時代が来たのは、嬉しい限りです」 3ヵ国の実力者が揃う今回のトリオでは、そうしたアジアのエネルギーを存分に体感したい。
元のページ