eぶらあぼ 2015.5月号
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第7回劇場を飛び出せ!「サイト・スペシフィック・ダンス」 ダンスは劇場だけで踊るわけじゃない。街中でも山の中でも、どこでだって踊れる。「サイト・スペシフィック」というのは、そういう様々な場所の「特異性」を活かした作品を指す言葉だ。 たとえばかつて伊藤キムは日本各地の大きめの階段を使って踊る「階段主義」というシリーズをやっていた。観客は階段の下から見上げることになり、通常の位置関係(客席=階段、舞台=平場)が逆転するわけだ。 フランスでは高級ホテルの一室での公演があった。観客は5人限定で、芝居仕立てのデュオが行われるのを部屋の隅で見守る。同じ趣向でもルーマニアでは二人のダンサーのあとをついて回る作品があった。ダンサーがベッドに入ると観客はそっと布団をめくりあげ、手渡された懐中電灯で中を照らしながらノゾキ見るのである。 世界でも名高い日本の舞踏だが、アメリカなどでは自然の中で踊る人が多く、サイト・スペシフィックなものだと思っている人も少なくない。日本でも田舎の舞踏公演では、観客が炎天下でぶっ倒れそうになりながら観てるのに、踊り手が川の中に浸かっていたりすると、てめぇ普段はカップ麺とか食ってるくせに自然と一体ぶってんじゃねえ!と軽く殺意が湧いたりするものだ。 大自然でもベルギーだと「観客は朝の5時に海岸に集合。闇の中で踊りはじめ、次第に夜明けの光に包まれていく姿を観る」というのもあった。「照明の電気を使わないからエコだ!」とか言ってるんだけど、ほんと客の体力にも限界ってものがあることを忘れないでくれよ。 屋内だと、駐車場もよく使われる。アメリカでは観客が車の中に座らされ、目の前で起こるダンス(ギャング映画風)の「目撃者」となる作品もあった。イスラエルでは体育会系のダンサーが、政府要人の車に伴走しながら駐車場内を走り回っているうち、一人がマジでドーン!とすごい音で実際に車にはねられる作品も。車は何事もなかったかのように走り去り、「大義のために使い捨てにされる人間」をシニカルに描いていた。 衝撃的だったのは、再開発前の東京汐留にあった廃駅だ。プラットフォームの屋根の上にロングコートの怪しいヤツらがゆらりと立ちあがり、その背後には満月が煌々と光り輝いていた……。本当にゾッとするほどの美しさだったのである。 いずれにしろサイト・スペシフィックは、場所の素晴らしさを凌駕するほどのダンスが不可欠なんである、という話をここまで延々してきたのは、3月に兵庫県立美術館で「サイト・スペシフィック・ダンス・パフォーマンス#4」というイベントが行われたからだ。オレはトークで参加し、関典子、長谷川寧、今津雅晴、岡元ひかる等のダンサーが屋外の円形劇場とホールで踊った。「現役のダンサーやアーティスト達が中心となって、地元の文化とともに発信していく」というのはこれからますます増えていく。劇場からも、どんどん飛び出していくといいぞ!Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお269

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