eぶらあぼ 2015.5月号
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1967月+「夏の音楽祭」(その1)の見もの・聴きもの曽そし雌裕ひろかず一 編 本号と次号では、例年通り、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭もたくさんあります。ご容赦のほどお願いいたします。●【7月の注目オペラ公演】(通常公演分) ベルリン州立歌劇場では、サーシャ・ワルツの演出・振付や舞踊による公演として、モンテヴェルディの「オルフェオ」(オペラ+ダンス)と、細川俊夫「松風」の上演が重要。特に「松風」では現代オペラにはなくてはならないソプラノのバーバラ・ハンニガンが出演するので、これは間違いなく聴きもの。バーデン・バーデン祝祭劇場は、特に音楽祭とは謳っていないが、ゲルギエフの独壇場。チャイコフスキーの「スペードの女王」やベルリオーズの「トロイアの人々」を手兵のマリインスキー劇場のソリストたちと共に上演する。ネゼ=セガン指揮ヨーロッパ室内管によるモーツァルト「フィガロの結婚」も充実した歌手陣。ミラノ・スカラ座はガーディナーが指揮し、フローレスが出演するロッシーニの「オテロ」が聴きもの。パリ・オペラ座では、6月から続くミンコフスキ指揮のグルック「アルセスト」、英国ロイヤル・オペラでも、同じく6月から続くパッパーノ指揮のロッシーニ「ギョーム・テル」が注目公演。なお、やや珍品ものではあるが、フランクフルト歌劇場で企画されるマルティヌーの1幕物オペラを3つ合わせた上演も面白い。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) ベルリン・フィル退任後にロンドン響のシェフに着くことを発表したサイモン・ラトルだが、早速そのロンドン響と、ピアノのツィメルマンとの共演や、J.ダヴの「迷路の中のモンスター」なる音楽劇の上演、とエキサイティングなコンサートが企画されている(これらはエクサン・プロヴァンス音楽祭でも取り上げられる)。指揮者のガーディナーとピリオド系のピアニストであるベズイデンホウトの共演は何の違和感もないが、このバックで演奏するオーケストラがスカラ・フィルというのが面白い。また、実質的には同じオケだが、スカラ座管の名の下に行われるグルベローヴァのオペラ・リサイタルも注目公演。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア 湖上オペラが有名な「ブレゲンツ音楽祭」、今年上演されるのはプッチーニの「トゥーランドット」。派手な舞台が想像されるが、指揮者には今や主要歌劇場引っ張りだことなったカリニャーニが登場する。一方、祝祭劇場の方の今年のテーマ作曲家はオッフェンバック。ヘアハイム演出の「ホフマン物語」や、珍しいチェロ協奏曲「軍隊風」などが演奏される。シュティリアルテ音楽祭の目玉は、アーノンクールとウィーン・コンツェントゥス・ムジクスが演奏するベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」。数年前にロイヤル・コンセルトヘボウ管を指揮して同曲を演奏したことはあったが、やはり気心の知れたコンツェントゥス・ムジクスとの演奏には一段と興味が湧く。また、昨年行われなかったグラーツ郊外シュタインツの教区教会でのコンサートも復活。ハイドンの交響曲第97番と「太鼓ミサ」という、これもファン垂涎のプログラム。さらにはこの音楽祭にはサヴァールの企画による「痴愚神礼賛」と題する興味深い演奏会もラインナップされている。〔Ⅱ〕ドイツ 7月のドイツの中心的な音楽祭といえば、まずは「ミュンヘン・オペラ・フェスティヴァル」を思い浮かべる人が多かろうが、昨年に続き、音楽監督のキリル・ペトレンコがバイロイト音楽祭の「リング」の指揮を引き受けているため、今年もこの音楽祭には全く登場しない。そのため、今一つ「売り」に弱い印象を受ける。それでもさすがにグルベローヴァやワルトラウト・マイヤーなどのベテラン独唱陣を配した充実した公演が並んではいるが、かつてサヴァリッシュがワーグナーの「マイスタージンガー」で最終日を締めることを定番としていたこの音楽祭。やはり「マイスタージンガー」で閉幕してほしいのはワーグナー・ファンの願いだが、ついに来年はペトレンコがこれを実現することが発表された。ということで、本来の期待は来年を待つことになろうか。シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭では、ヘンゲルブロックの開幕演奏会は比較的地味(?)なプログラムなので、むしろアルゲリッチとジルベルシュテインのピアノ・デュオやソコロフのピアノ・リサイタルの方が面白い。なお、ソコロフは、このほか「ラインガウ音楽祭」、「キッシンゲンの夏音楽祭」にも登場する。毎年、一部の期間しか紹介できない「ルール・ピアノ・フェスティヴァル」だが、出演ピアニストの多彩さにかけては当代随一ともいえる音楽祭。5月から始まるロングランのイベントなので、7月だけでなく、是非5月や6月の公演予定もホームページでご参照いただきたい。 さて「バイロイト音楽祭」は、キリル・ペトレンコの指揮する「リング」が最終年となり、来年から今年の「東京・春・音楽祭」で「ワルキューレ」の快演を聞かせてくれたマレク・ヤノフスキが指揮を受け継ぐ(演出は同じ)。ということでペトレンコのファンにとっては今年も重要なバイロイト「リング」となろう。ただし、今年の人気はティーレマン指揮の「トリスタンとイゾルデ」プレミエに集中している。「マイスタージンガー」の演出で確信的ともいえる問題演出を行ったカタリーナ・ワーグナーの演出だけに、おそらく今年のこの音楽祭後は「トリスタン」の演出を巡って賛否両論の議論がヒートアップすることになるのだろう。なお、ドイツでは、バート・ヴィルトバートで行われる「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」という音楽祭が最近ロッシーニ・マニアに注目されている。〔Ⅲ〕スイス 昨年のコメント同様、チューリッヒ音楽祭には、かつての常連だったミンコフスキもクリスティも出なくなり、ややさびしい限り。おまけに、毎年登場していたグルベローヴァの名も見えない。歌より、シフ(ピアノ)やムター(ヴァイオリン)が器楽のコンサートで盛り上げているというのが実情。その中で、テツラフがシマノフスキのヴァイオリン協奏曲を弾くトーンハレ管の演奏会は要注目。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の企画である「カラカラ劇場」でのオペラ公演が面白い。また、「マルティナ・フランカ音楽祭」は、相変わらず意欲的な曲目選択で、玄人好みの音楽祭路線を継承している。〔Ⅵ〕フランス 「ボーヌ・バロック音楽祭」は、相変わらず古楽系随一の夏の音楽祭。今年もルセ、アレッサンドリーニ、クリスティ、ダントーネ、マクリーシュ、ヤーコプス、スピノジといった有名指揮者に加えて、歌手陣も充実。全体を通じて全て◎レベルの注目公演とご理解いただきたい。「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、ローレル指揮クシェイ演出のモーツァルト「後宮からの誘拐」が今年の目玉のようには見えるが、日本のファンにとっては大野和士指揮によるブリテン「真夏の夜の夢」が重要。地中海ユース管なるオケでマーラーを振る演奏会もある。ラトル=ロンドン響については「注目オーケストラ公演」の項で記述したとおり。「オランジュ音楽祭」では、名前の酷似するマルタ・アルゲリッチとニコラス・アンゲリッチの共演(チョン・ミョンフン指揮フランス国立放送フィル)というジョークのような企画がある。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)2015年7月の

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