eぶらあぼ 2015.5月号
173/225
184CDSACDCDCD可愛いナンシー~18世紀のギター音楽/浜松市楽器博物館コレクションシリーズ51チャイコフスキー:冬の日の幻想&1812年/小林研一郎&ロンドン・フィルラフマニノフ:交響曲全集/ラザレフ&日本フィルモーツァルト:ピアノ作品集/遠山慶子ヴィゼ:組曲ニ短調、2つの小品/メルキ:2つのイングリッシュギターのためのソナタ第5番/作者不詳:可愛いナンシー/ボルトン:鍵盤付ギターのための3つのレッスン 他竹内太郎(バロックギター、イングリッシュギター)野々下由香里(ソプラノ)大塚直哉(チェンバロ) 他チャイコフスキー:交響曲第1番「冬の日の幻想」、序曲「1812年」小林研一郎(指揮)ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団ラフマニノフ:交響曲第1番~第3番、交響的舞曲アレクサンドル・ラザレフ(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団モーツァルト:ピアノ・ソナタ第15番、デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲、ピアノ四重奏曲第1番遠山慶子(ピアノ)ウィーン弦楽四重奏団メンバー[ウェルナー・ヒンク(ヴァイオリン)、ハンス・ ペーター・オクセンホファー(ヴィオラ)、 フリッツ・ドレシャル(チェロ)]コジマ録音LMCD-2028 ¥2900+税オクタヴィア・レコードOVCL-00548 ¥2857+税収録:2011年~13年、東京(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00560(3枚組) ¥5000+税収録:2014年、草津&東京(ライヴ) 他カメラータ・トウキョウCMCD-28318 ¥2800+税これは貴重。そして、幸福な愉悦にも溢れている。18世紀にサロンで愉しまれたギター作品を、世界初録音となる、鍵盤の入った箱を取り付けて音を出す機構を備えたイングリッシュギターをはじめ、浜松市楽器博物館所蔵のオリジナル楽器で収録。広く欧州を俯瞰するように集められた楽曲は、時にフラメンコを思わせる躍動感、時に有名曲のパロディ、時にしっとりとした機微を表現するなど変幻自在に色彩が変化し、聴き手を決して飽きさせない。ロンドンを拠点に活躍する、竹内のしなやかでウィットに富んだ演奏からは、これらの作品に対する、深く熱い思い入れも伝わって来る。(寺西 肇)小林研一郎&ロンドン・フィルによる「チャイコフスキー:交響曲全集完結編」の第1番は、実に見通しの良い秀演。録音の優秀さも相まって(SACDの音質が素晴らしい)、まるでテクスチュアが透けて見えるかのような明晰な演奏となっており、その意味ではコバケンと言うと口をついで出る「炎の」との形容詞はここでは当てはまらない。曲の性質かもしれないが、情念的なアプローチではなく、楽曲の自律的な美しさをありのままに表出した演奏と言うべきだろう。そのサウンドは清らかさすら感じさせ、好感が持てる。 序曲「1812年」もむやみに煽り立てない純音楽的な美演だ。(藤原 聡)毎公演白熱の演奏を展開するラザレフ&日本フィルによるライヴ録音集。筆者は一部の公演とリハーサルに立ち会えたが、文字通り「1秒たりとも無駄にしない」濃密な指導で細部まで徹底的に鍛え上げ、ラフマニノフの複雑なスコアを漏らさず顕在化していく様に圧倒された。本番では鮮明な響きでパッション全開の熱演を実現。録音でもその長所は失われず、どの曲も終楽章の緊張感と壮絶さは特筆もの。「曲の真価を知らしめる」という意気込みあふれる第1番から、自在な表現で心揺さぶる交響的舞曲まで、絶好調コンビの記録のみならず、聴きごたえ充分の熱いラフマニノフ・アルバムだ。(林 昌英)モーツァルト作品の演奏に、人を魅了する“優美さ”を伴うためには、技術面の克服に加え、和声変化に対する鋭敏な感覚、音色そのものへの飽くなき探求心が求められる。遠山は、柔らかく、しかし豊かに響く音色を駆使して、旋律の一つひとつを語尾まで丁寧に歌い上げて自然にそれらの課題を達成している。ソナタでの滑らかな指運び、「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」における息の長い歌い回し、各変奏に息づく舞踏のリズムの自然な表出が大変魅力的。四重奏曲においては、深い悲しみや秘めた情熱を表現する音色のコントロールの自在さに驚嘆させられる。(長井進之介)
元のページ