eぶらあぼ 2015.4月号
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58インゴ・メッツマッハー(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団鬼才ならではの“コア”な選曲文:オヤマダアツシ日本橋オペラ2015 《トリスタンとイゾルデ》 全曲舞台上演 室内オーケストラ版 世界初演“進化形”のワーグナーを体感文:江藤光紀#539 定期演奏会 4/12(日)14:00 サントリーホール#540 定期演奏会 4/17(金)19:15、4/18(土)14:00 すみだトリフォニーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 http://www.njp.or.jp5/2(土) 第1幕13:00、第2幕15:30、第3幕18:00 日本橋劇場問 東京国際芸術協会03-3809-9712 http://www.tiaa-jp.com 2013年の秋、新日本フィルハーモニー交響楽団の「コンダクター・イン・レジデンス」というポストに就任。ベートーヴェンやチャイコフスキーの交響曲から、ワーグナーの楽劇、ベルント・アロイス・ツィンマーマンなどの同時代音楽までを、斬新なアプローチと音響構築で聴かせてくれたインゴ・メッツマッハー。 4月の定期演奏会に登場して2プログラム(3回)のコンサートを指揮し、ひとまずポストから退く。そのコンサートにマエストロが選んだのは、オーケストラの機能性や多彩な音色がものを言う19世紀後半から20世紀にかけての作品だ。 4月12日のサントリーホール・シリーズでは、音色実験のようなシェーンベルクの「5つの管弦楽曲」、大編成を要す ゴールデンウィークの真っ最中、5月2日に《トリスタンとイゾルデ》が上演される。しかも、日本初となる、スタッフとキャストともにオール日本人というプロダクション。定員450人ほどの日本橋劇場での19人のオーケストラによる編曲版(編曲は本公演でも指揮をする佐々木修)で、演出もついている(舘亜里沙)。 歌唱陣も魅力的だ。1・2幕でトリスタンを歌う片寄純也は東京二期会の《パルジファル》でタイトル・ロールも務めた人気歌手。3幕で同役を歌う升島唯博はドイツでの舞台経験が豊富だ。体力が要求されるイゾルデ役を歌うのは福田祥子。ドラマティック・ソプラノという日本人では数少ない声種で、ウィーンで研鑽を積む将来の大器だ。 ワーグナーは長くて苦手、という人もいるだろう。この点でも工夫されている。《トリスタン》は上演時間だけで4時間ほどかかるが、今回は幕ごとに分売もされている。「あの名場面をオペラの中で見るヤナーチェクの「シンフォニエッタ」、そしてオーケストラの腕試しとなるバルトークの「管弦楽のための協奏曲」を。17日および18日のトリフォニー・シリーズでは、リヒャルト・シュトラウスによる2曲の交響詩に加え、“音響の魔術師、音響のマッド・サイエンティスト”と呼びたくなるエドガー・ヴァレーズの作品が演奏される。しかも名作の呼び声高い「アルカナ」(神秘、奥義などの意味)は日本初演というおまけ付きだ。 さすがはメッツマッハー、いつでも“ちょっとお騒がせ”なプログラミング。すでに発表されている2015/16シーズンには来演のアナウンスがないだけに(残念!)、この3回は貴重なコンサートになるだろう。たい!」という人も気軽に聴きに行ける。 かなり実験的な試みのようにも見えるが、こうした公演形態は日本人にはむしろあっているのではないかと筆者は思う。日本では、大作は巨大なホールで、と通り相場が決まっているが、ドイツでも地方にいけば比較的小さな劇場でもワーグナーやヴェルディをやっている。日本人の体格からいうと小型ホールで喉に負担のない形で上演するほうが歌手の本来の持ち味が引き出せるし、聴き手もその歌声を体全体で受け止められ演技も身近で楽しめる。これはコストと合理性を追求した進化形ではないだろうか。聴きにいってみれば、ナマの迫力に驚くはずだ。インゴ・メッツマッハー ©K.Miura福田祥子佐々木 修
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