eぶらあぼ 2015.4月号
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38小山実稚恵Michie Koyama ピアノデビュー30周年への思いと、新たなる展開取材・文:柴田克彦 写真:青柳 聡 人気・実力共に日本を代表するピアニスト・小山実稚恵が、今年デビュー30周年を迎えた。「あっという間ですね」と感慨深く語る彼女にとって「彩の国さいたま芸術劇場でのバッハのシリーズや、スクリャービンとラフマニノフのシリーズ、20周年、25周年の各公演」などが特に思い出深いコンサートだったそうだ。 現在まだ進行中(2006~17年)の、Bunkamuraをはじめ7都市で行っている12年24回シリーズも大切なコンサート。「同じプログラムを異なる会場で定期的に弾くことで、いかなる要因が演奏を左右しているのか? など色々なことを知り、また考えることになりました」 30年を経て心境の変化もある。「以前は“ピアノから音楽を見ていた”気がしますが、最近は“まず音楽があって、そこからピアノを弾く”ようにしなければいけないと感じています。また、仙台に生まれて盛岡で育った私にとって、震災は本当にショックでした。あの後、私は好きなことをしているのだから、悔いがないよう全力で取り組まなければ! と強く思ったのです」 彼女は今「シューベルト、バッハ、ベートーヴェンが好き」だという。「特にシューベルトは、今年のリサイタルにも極力入れながら、24回シリーズの中で最後の3つのソナタを始めます。このシリーズでは来年からベートーヴェンの最後の4つのソナタも弾きますし、今年11月にはバッハの『ゴルトベルク変奏曲』も。これは同曲の30の変奏を30周年にかけています」 4月には、シューベルトの「即興曲集」のCDもリリースする。「即興曲は、いたわりの心や慎ましさを感じます。同じフレーズの繰り返しのなかで、毎回ニュアンスが変わるところなど、本当に優しく美しい」 オーケストラとの30周年記念公演もいくつか予定されており、4月には川瀬賢太郎&名古屋フィル、飯森範親&日本センチュリー響、大野和士&都響、11月にも広上淳一&N響と演奏する。 そして今年、日本センチュリー交響楽団の「アーティスト・イン・レジデンス」に就任した。これは日本では初の試みだ。「団員とソリストの関係をより深めたいとの主旨でお話をいただきました。演奏家にとっても嬉しいことですし、聴衆も演奏家を深く知ることができるので、いい試みだと思います」 日本センチュリー響とは「最近共演する機会が非常に多く、親密な関係」にある。「バルトークの2番やブリテンなど珍しい曲も含めて、様々な作品を演奏しています。オーケストラの雰囲気もよく、音作りがしなやかで、音楽に対して自然なアプローチをされる印象があります」 具体的な活動は「現在詰めているところ」で、4月の定期と来年2月の「四季コンサート」のほか、「室内楽をはじめ、面白い形で色々な活動を行う予定」とのこと。 4月の日本センチュリー響200回記念定期では、首席指揮者・飯森範親のもとで、シューマンの協奏曲を披露する。他の演目は、和田薫の委嘱作の世界初演、声楽付きのマーラー「大地の歌」という“一粒で3度美味しい”コンサートだ。「シューマンは飯森さんの強い希望でしたが、大好きな曲ですから大歓迎。この曲は、通常のコンチェルトとは全く違って、ピアノとオーケストラの主従がなく、両者が寄り添い、バトンタッチしながら一緒に進みます。そうした室内楽的な面や絶妙なバランスが聴きどころになります」 協奏曲における指揮者との関係についての考えも興味深い。「一緒に交響曲を作るといった感じが一番いいのではないかと。指揮者の首筋や背中を見ていれば呼吸はわかりますから、自然な流れに任せたいですね」 両者寄り添うシューマンの協奏曲は、このあたりも聴きどころだ。 今後は「ジャンルを問わず、心からいいなと思えるものを大事にしたい」と語る。それを音楽にも映した、更なる深化を期待してやまない。

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