eぶらあぼ 2015.4月号
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 現代フラメンコ界の至宝、マリア・パヘスが満を持して挑む“カルメン”。『Yo, Carmen―私が、カルメン―』というタイトルが示す通り、これまで描かれてきたカルメン像へのアンチテーゼとして、彼女が創造した舞台には強いメッセージが込められている。プロモーション来日中のマリアに真意を訊ねた。「メリメの原作もビゼーのオペラもフランスの男性が作った作品で、主役も男性のドン・ホセです。ステレオタイプのファム・ファタールとして描かれるカルメン像にずっと違和感を持っていました。ですから私は一般に流布してきたカルメン像の対極を、総体としての女性の人生を表現することによって示したいと考えました」 舞台作りは2年にわたる(!)各国女性たちとの対話から始まった。「今回、与謝野晶子やフランスのマルグリット・ユルスナールなど、多様な国の女性たちの詩歌やテキストを朗読するシーンがありますが、各国の多くの女性たちとの対話を通して私は確信しました。どの国の女性にも共通する普遍性がある、それを表現したい、と」 ちなみに、日中戦争を憂う与謝野晶子の作品は昨年発見されたばかりのもの。こうした日本の珍しい作品にスペイン人の彼女がスポットを当ててくれたことは、日本の観客にとって、とてもうれしいサプライズだろう。「女性たちの暮らしって、素顔で洗濯する日もあれば、化粧やおしゃれをして着飾る日もありますよね。異なる文化背景があっても、同じ悩みを抱え、同じ喜びを感じている私たち女性は、人生を柔軟に生き抜く強さを持っており、お互いに共感しあえるのです」 洗濯物やバッグといった小道具の使い方も、とてもユニークな見どころだ。「洗濯物やバッグは女性の日常に欠かせません。今回の舞台は舞台美術を極力シンプルにして、小道具をより効果的に見せる工夫を凝らしました。注目していただきたいのは、踊り手が持って踊ることによって、洗濯物やバッグもまるで人のようにステップを踏み、“踊っている”ように見える点。特に女性とバッグは中身がパーソナルという意味で一心同体です。同じバッグでも中身を見ればその女性の個性がわかるのではないでしょうか。ですから、女性の人生の大切な一部である洗濯物やバッグは、持つ人と共に、軽やかに生き生きと舞うべきなのです」 音楽的な構成作業も重要だった。「皆さんがよくご存じの前奏曲から始まるオペラのオープニングでは、“さあ、カルメンが始まるぞ”といったインスピレーションが喚起されてイメージがパッと脳裏に浮かぶと思います。けれども私は、通常のオペラで示されるコンテクストとは違う当てはめ方をしました。その後、詩を使うシーンに変わりますから、『やや? これは知っているカルメンと違うようだ』と期待していただけるはずです。また、クラシック音楽ファンの方にきっと楽しんでいただけると思うのは、セバスティアン・イラディエル(1809-65)による『ハバネラ』にフォーカスした場面です。オペラ《カルメン》のなかのハバネラは実はスペイン人のイラディエルが作った曲をベースにしたものなのです。ビゼー作曲として知られているのはちょっとフェアじゃないと思っていたので、同じスペイン人として、私はイラディエルのオリジナルを採用したかった。こうした音楽的なディテールも、マリア・パヘス・バージョンのカルメンらしさを形作る重要な要素でしょう」 冒頭で示した通り、『Yo, Carmen―私が、カルメン―』というタイトルにはマリアの強い意志が込められている。「男性の想像の産物であるカルメン像に異を唱えたい。私たち女性一人ひとりの中に、それぞれのカルメンがいて、それはカルメン自身もおそらくそうであるように、男性が想像するカルメンとは違うのです。イラディエルのハバネラも含め、この作品にはあらゆる“失われたもの”を取り戻すという意味合いを込めています。女性はもちろん、男性にもぜひ観ていただきたいですね」本来のカルメンという「女性」そのものを表現したい取材・文:中沢明子 写真:中村風詩人マリア・パヘス舞踊団『Yo, Carmen ―私が、カルメン―』4/24(金)~4/26(日) Bunkamuraオーチャードホール問 Bunkamura03-3477-9999http://www.bunkamura.co.jp/4/28(火)14:00、4/29(水・祝)13:00 兵庫県立芸術文化センター問 芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255244

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