eぶらあぼ 2015.3月号
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38 馥郁たる香り立つノーブルなヴァイオリニストといえば、まずはレジス・パスキエが思い浮かぶ。今年70歳の彼は、有名なパスキエ一家の一員としてフランコ・ベルギー派の伝統を伝える、フランスの人間国宝的な名奏者だ。2012年トッパンホールにおけるリサイタルでは、風格と品性を湛えた唯一無二の芸を披露。特にエネスクのソナタでは、技術があっても真似ることのできない、深遠なる名演を聴かせた。そしてこの3月、再び同ホールに登場する。演目はむろんお国ものが中心。ルクレールとサン=サーンスのソナタを、本場の名匠3/24(火)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.comレジス・パスキエ(ヴァイオリン)大人の味が染み渡る、本流の至芸文:柴田克彦©Alavaro Yanezの演奏で聴けるのは貴重だし、前回初期作品の方が弾かれたラヴェルのソナタも、今回は嬉しいことに円熟期の名作を耳にできる。プロコフィエフのソナタも、若手が届かぬ至芸で曲を再認識させること必至。グァルネリ・デル・ジェスの名器「クレモナ」のゴージャスで滴るような音色もまた、全ての魅力を高める。熟成された大人の音楽、本流の歴史と経験が滲む高貴で味わい深いヴァイオリン演奏を、ぜひご堪能あれ!4/7(火)18:30 日経ホール問 日経ミューズサロン事務局03-3943-7066 http://www.nikkei-hall.com第435回日経ミューズサロン イェルク・デームス(ピアノ)ウィーンの作曲家たちの晩年の名作を集めて文:高坂はる香 1928年オーストリアに生まれ、戦中、戦後のウィーンやパリで数々の伝説的な演奏家の薫陶を受けたイェルク・デームス。バドゥラ=スコダ、グルダとともに“ウィーン三羽烏”と呼ばれた彼は、クラシック黄金時代から続く古き良きウィーン音楽の感性を体得する、最後の巨匠ピアニストの一人だ。 デームスが用意した今回のプログラムは、すべてがウィーンにゆかりのある作品。一説にハイドンがモーツァルトの死を悼んで作曲したと言われる「アンダンテと変奏曲」、モーツァルトのソナタ第11番、ベートーヴェンのソナタ第31番、ブラームスの「6つの小品」op.118、シューベルト「4つの即興曲」D899と、作曲家達がウィーンで辿りついた晩年の境地を聴く作品が集められている。今年87歳を迎えるデームスの演奏でこうした作品を聴くことの価値は、計り知れない。巨匠の長きにわたる演奏家人生が作品の精神と一つになる、貴重な音楽を聴くことになるだろう。5/21(木)19:00 王子ホール 2/28(土)発売問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 http://www.ojihall.jpサンドリーヌ・ピオー(ソプラノ) 女性の感性をテーマに歌う文:宮本 明©Sandrine Expilly/NAÏVE 2012年の日本での初リサイタルからおよそ3年ぶり。フランスのソプラノ、サンドリーヌ・ピオーが再びリサイタルでその歌声を聴かせてくれる。美しくみずみずしい声と絹糸を紡ぐような丁寧な表現の虜になった人も多いのでは。古楽の巨匠たちに愛され、バロックやモーツァルトを軸に活躍してきたが、キャリアを重ねるとともにレパートリーを広げており、今回も19~20世紀の作品でプログラムを構成している。ショーソン、ドビュッシー、R.シュトラウス、ケクラン、ツェムリンスキー、シェーンベルク。これは2007年にリリースしたCD『エボカシオン』をほぼ再現するもので、テーマは「女性」。CDに掲載された本人の言葉によれば、そこに特別なストーリーはなく、「欠如や幸せ、悲しみといった感覚」「意識と無意識のあやふやな境界線上にある夢」「くらくらするようなエロティシズムへの招待」が存在しているという。あの完成度の高いCDの内容を実演で聴ける貴重な機会となりそうだ。
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