eぶらあぼ 2015.3月号
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25都響とは実りの多い時間を過ごすことができるでしょう。取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭 大野和士は、今年創立50周年を迎えた東京都交響楽団の音楽監督に、この4月就任する。彼は元々同楽団と縁が深い。「1984年のファミリーコンサートでの公的デビュー、89年のプロ・オーケストラの定期演奏会デビュー、遡って83年の音楽教室デビューという、私の3つの“デビュー”のいずれもが都響ですから、運命的なものを感じます。今の都響は、立体的な音が立ち上がってくるオーケストラ。低音部(ベース)が強固であるがゆえに、高い山を築くことができます。また世代間のバランスもよく、皆が一緒に成長しているのを感じます」 2015年度のプログラムは「広がりから中心部へ」を意図したとのこと。まず4月の就任記念定期では2つのプログラムを振る。「最初のプログラムのシュニトケは、内的エネルギーに充ちた作風ですが、合奏協奏曲のシリーズは祝祭的な曲が多いのです。今回演奏する第4番は、マーラーのピアノ四重奏曲等が引用された、コラージュ的手法がとられています。そして彼は交響曲第5番とも位置付けていますので、“5番中の5番”ともいえるベートーヴェンへ、つまり広がりから中心部へ向かうプログラムを組みました。これによって互いの位置が多面的に見えてくると思います」 もう1つのプログラムはマーラーの交響曲第7番。「この曲は、全く異なる作風の2つの『夜曲』をもっています。第2楽章はレンブラントの『夜警』の世界。夜の魑魅魍魎や悪夢を追い続けます。一方第4楽章は、文字通り愛の音楽としての『セレナード』です。そして終楽章は、他の交響曲のキリスト教的な天上の世界と違って、異教的世界の天上的なカーニバル。異教の神々が酒を飲みながら笛や太鼓を鳴らして大騒ぎしている…。非論理的なロンドです」 同曲が現代作曲家に与えた影響は大きく、なかでも「7番を愛したのがシュニトケ」だという。「交響曲論理の逸脱という意味で、シュニトケとマーラーの7番には内的な近似性があります。それと同時に、マーラーの7番とベートーヴェンの5番はハ長調で終わります。よって3者が三角形で結ばれる。これが最初の2つのプログラムです」 11月の定期では、細川俊夫の都響50周年委嘱作品とドビュッシー「海」を軸にしたプログラムを披露する。「細川さんの作品は“自然の猛威”と“ある女性の祈り”を描いています。自然は海、女性は母のこと。日本人ならこの意味はすぐわかるでしょう。音楽的には“田園”的な方向性ですが、着想は海ですから、ドビュッシーと対をなします」 なお、レーピンが弾く協奏曲等を加えた同演目は、直後のヨーロッパ旅行でも演奏される。 2016年3月には、『作曲家の肖像』シリーズの最終回で、邦人作品を指揮する。「池辺晋一郎さんの交響曲第9番は、私が『“第九”を書いて欲しい。歴史上危ないので(笑)一緒に“第十”も書きながら』と話したら、乗り気で作曲された所縁の作品。雅楽の響きを再現した柴田南雄さんの『遊楽』は、『和楽器の伝統的奏法=インプロヴィゼーションから生まれる音楽を集めれば自然に偶然性の音楽になる。西欧の偶然性音楽の作曲家など時代の寵児ではない』との旨で書かれた作品。16年は先生の生誕100年でもあります。武満徹さんの『冬』は、彼の曲の中で最も温もりのある音楽。このように違う時代の日本を代表する作曲家をまとめました」 また16年2月には、都響との“デビュー曲”である序曲「ローマの謝肉祭」などの名曲を揃えた『プロムナードコンサート』も振る。 最後に都響との今後について。「既に高い山を築いていますので、個々の樹々からより色彩が出てくれば、ヨーロッパの一流オーケストラと完全に肩を並べる存在になると思います。そのためには、先ほど言った“外側から放射される光で中心部を照らす”こと。例えばバッハの『ロ短調ミサ』を演奏すれば、ベートーヴェンがもっと色々な顔を見せてくるでしょう。ですから、5月のド・ビリーが振るデュティユーとブラームスのようなプログラムを、客演陣にも要請していきたい」 なお、大野&都響は大阪でも特別公演を行い、デビュー30周年のピアニスト・小山実稚恵と共演する。こちらも楽しみだ。 各公演のさらなる詳細のほか、就任の経緯や契約内容、他のポストとの兼ね合い、昨年12月公演のプログラムの意味、アウトリーチ活動、新企画等々の興味深い話は、この10倍もの分量が必要なほど。大野&都響への期待は膨らむばかりだ。

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