eぶらあぼ 2015.3月号
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168SACDCDCDCDマーラー:交響曲第10番/インバル&都響デュティユー:交響曲第1番、メタボール/ヤルヴィ&パリ管クロイツェル:ヴァイオリンのための42の練エチュード習曲/島根恵グランド・デュオ・コンチェルタント/磯部周平マーラー:交響曲第10番(デリック・クック補筆による、草稿に基づく演奏用ヴァージョン)エリアフ・インバル(指揮)東京都交響楽団デュティユー:メタボール、ひとつの和音の上で、交響曲第1番パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)パリ管弦楽団クリスティアン・テツラフ(ヴァイオリン)クロイツェル:42の練習曲または奇想曲op.20島根恵(ヴァイオリン)ブラームス:クラリネット・ソナタ第1番/ベルク:4つの小品/ウェーバー: グランド・デュオ・コンチェルタント/ペンデレツキ:3つのミニアチュア/シューマン:幻想小曲集/シュトラウス:万霊節磯部周平(クラリネット)岡崎悦子(ピアノ)収録:2014年7月、東京(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00520 ¥3200+税ワーナーミュージックWPCS-12888 ¥2600+税コジマ録音ALCD-9144~9145(2枚組) ¥3400+税マイスター・ミュージックMM-3041 ¥2816+税インバル&都響のマーラー・ツィクルスの「補遺」とも言うべき第10番(クック版)のライヴ。傑作揃いであった彼らの今までの録音をも凌ぐ強烈な名演。冒頭から表現が確信に満ち、曖昧な箇所は一つとしてない。自家薬籠中、とは正にこのことか。クック版をここまで血肉化している指揮者はインバル以外に存在しないかもしれない。わけても終楽章、特にコーダ以降が実に感動的で、基本的に堅固で知的なこの指揮者としては珍しい奔流のような感情の放出・うねりがある。都響の演奏力にも脱帽で、ここまで正確かつ美しく情感も豊かにこの難曲を演奏できるとは。(藤原 聡)2013年世を去ったデュティユーは、パリ管と密接な関係を築いてきた作曲家だった。その代表作3曲が逝去の直前に取り上げられたが、結果的に鮮やかな演奏によって故人の偉業を偲ぶ追悼盤となってしまった。よく練られた精緻な管弦楽書法はデュティユーの大きな魅力だが、パーヴォのリードは音楽の輪郭をしなやかに描き、パリ管の名手たちが濃淡の諧調を付け加える。「メタボール」の冒頭からずしりと響く低音の上に色とりどりの花が開き、交響曲第1番は堂々とした構成美でフランスの“サンフォニー”の伝統を主張する。「ひとつの和音の上で」では、テツラフのエッジを効かせたソロがオーケストラと対峙する。(江藤光紀)ヴァイオリン学習者ならば、一度はお世話になった経験があるはずの「クロイツェルの教本」。島根が繊細なアーティキュレーション遣いで陰影豊かに奏すると、あたかも無伴奏の佳品の趣きすら帯びてくる。しかも、彼女は曲ごとに違った色彩を与え、聴き手を全く退屈させることなく、全42曲を弾き切ってみせる。ブックレットに収録された、学習者への助言は短いながらも的確で親切。教育の中で大きなウェイトを負いつつも、演奏史上は軽視されがちな作品に温かな眼差しと真摯な姿勢で対峙し、現代的かつ的確なアプローチで光を当て続ける島根の活動。大いに評価されるべきだ。(寺西 肇)元・N響首席奏者が自作集(MM-3042)と同時にリリースした、ドイツ・ロマン派の代表曲に近現代の2曲を加えた“クラシックの大作曲家”のクラリネット名品集。全体に、力みなく味わい深いベテランの至芸といった趣だ。枯淡と情熱が絶妙に同居したブラームス、柔らかな質感とスムーズな節回しで魅せるウェーバー、馥郁たる温かみを湛えたシューマンと、楽曲の特質に即した好演が続き、ベルクとペンデレツキも先鋭色を強調せず、これらの延長線上にある音楽であることが示される。一般の音楽ファンがクラリネット音楽の魅力を知る、格好の糸口となるであろう1枚。(柴田克彦)
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