eぶらあぼ 2015.2月号
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52アンジェラ・ヒューイット(ピアノ)好対照をなす魅力的なプログラム文:山崎浩太郎チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団熱きコンビが放つ渾身の一撃文:柴田克彦第1夜 4/27(月)19:00第2夜 4/28(火)19:00王子ホール問 王子ホールチケットセンター 03-3567-9990http://www.ojihall.jp第859回 サントリー定期シリーズ2/25(水)19:00 サントリーホール第91回 東京オペラシティ定期シリーズ2/26(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京フィルチケットサービス03-5353-9522 http://www.tpo.or.jp アンジェラ・ヒューイットといえばバッハ、という印象が強いかもしれない。 たしかに彼女は最新作の「フーガの技法」など、バッハの作品を多数CDに録音し、いずれも高く評価されてきた。それに、グレン・グールドと同じカナダのトロント王立音楽院出身という経歴も(演奏スタイルはかなり異なるが)そう思わせてしまうかも知れない。 しかし、たとえば昨年12月の読売日本交響楽団の定期で、シルヴァン・カンブルランの指揮のもとメシアンの「トゥーランガリラ交響曲」のピアノ・パートを担当、スケールの大きな熱演を力強く聴かせたことが示すように、近現代の作品、とりわけフランス音楽も大いに得意とするピアニストなのだ。 ラヴェルやシャブリエの華麗で技 チョン・ミョンフンが指揮する東京フィルの公演は、常に聴き逃せない。2001~10年、チョンのスペシャル・アーティスティック・アドヴァイザー時代も、毎回熱い注目の中で快演を展開した彼らだが、桂冠指揮者となってチョンの登場機会が減った今、その共演はまさに“一期一会”だ。それを実感したのが、13年11月の《トリスタンとイゾルデ》全曲。厚い響きと精緻な構築を終始保ちながら、引き締まった官能を表出した演奏は、両者が培ってきた音楽の深さを十全に知らしめ、聴く者にさら巧的な曲を軽やかにひきこなしつつ、バッハの抽象化された“音の建築物”を見事につむぎだす。ヒューイットはそのような、多面性をもったピアニストなのである。 この2夜連続公演は、まさにその個性を聴かせてくれる。第1夜(4/27)はスペイン音楽。イタリア生れだが長くスペイン王家の宮廷で活躍したスカルラッティを入り口に、グラナドス、アルベニス、ファリャと、近代ピアノ音楽の庭園へと導いてくれる。そして第2夜(4/28)は、スカルラッティと同じ年に生れたバッハ作品のなかから、とりわけ人気の高い「ゴルトベルク変奏曲」。イタリアに発してスペインとドイツに花開く、鍵盤音楽の伝播を楽しめるプログラムだ。なる共演を熱望させた。 そして今年2月、そのとき以来の共演が実現する。演目はマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。これには激しく胸が躍る。当コンビにとってマーラーは、合併後の東京フィルの幕開けを告げた01年の第2番「復活」以来、幾多の名演を残してきた作曲家。また、N響客演時や12年から首席客演指揮者を務めるシュターツカペレ・ドレスデンでも継続して取り上げるなど、チョンが力を注ぎ続けるレパートリーでもある。しかも彼の第6番は日本初披露。古典的な器楽交響曲の到達点にして新ウィーン楽派を予見した同曲がいかに表現されるか? チョン自身「マーラーの中でもそれ以前から以降の作品への転換点。必ずしも“悲劇的”とは考えておらず、むしろロマン派から20世紀音楽へ繋がる重要な作品」との旨を述べているから、これまでになく清新な「悲劇的」出現への期待も大きい。 チョンの大きな魅力は、高いテンションの維持がもたらす濃密な感動にある。その意味でも彼に相応しい本演目は、何を置いても“必聴”と言うほかない。 ©Bernd Eberleチョン・ミョンフン ©K.Miura
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