eぶらあぼ 2015.1月号
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77CD『この道 ―― 福井敬、故郷を歌う。』ディスク クラシカ ジャパンDCJA-21028¥3000+税故郷への思いをうたに託して取材・文:宮本 明Interview福井 敬(テノール) オペラにコンサートに、現在最も活躍するテノールの筆頭格・福井敬が日本歌曲第2弾CDとなる『この道』をリリース。雰囲気満点のジャケット写真は郷里・岩手県水沢市での撮影。副題も「故郷を歌う」だ。 「最初から故郷を意識したのではなく、気がついたらこういう選曲になりました。望郷とは、土地そのものより、そこで関わった人々すべてへの思いです。亡くなった肉親や友人、仲間たち。実は一曲一曲に彼らの“顔”が刻まれている。自分にとってはそんな思いも含めての“故郷”です」 岩手の生んだ詩人・宮澤賢治の詩『雨ニモマケズ』の朗読も聴かせる。東北訛りがにじむ語り口に、なるほどこういう「音」で読むべき作品だったのかと納得させられる。 「故郷では、宴席などの集まりで必ず誰かが賢治を吟じ始める。賢治の世界が身近なんですね。感傷的な話になってしまいますが、亡くなった私の父は、他人はもちろん家族の前でも絶対に歌わなかったのに、たった一度だけ、家族で賢治記念館に行った帰りに車を運転しながらふと口ずさんだ。それが〈星めぐりの歌〉でした」 日本語で歌うことをあらためて考えさせられたのが、2004年にリリースした松本隆訳詞の日本語版「美しき水車小屋の娘」のCDだった。 「コンサートで歌うと、ドイツ語とは大きく違うお客様の反応がひしひしと伝わって、ドラマを直接日本語で伝えられることの意味の大きさに気づきました。だから日本歌曲でも“言葉”を伝えることを第一に心がけています。メロディは言葉を表現するためにあるわけですから」 30代から少しずつ歌い貯めてきた日本歌曲だが、50歳を過ぎた今だからこそ歌えると感じる曲も少なくない。 「発声でも表現でも。たとえば1曲目の〈木兎〉(みみずく)はバリトンが歌うことが多い曲ですが、詩も音楽も今の自分の心情にぴったり。今でしょ!という感じです(笑)。年齢とともによい味を出す俳優さんのように、“声のシワ”のようなものを駆使できるのは悪いことじゃないなと思います。通常は女性が歌う〈曼珠沙華〉(ひがんばな)や〈霧と話した〉も、若い頃だったら女性の気持ちを汲み取れなかったかもしれません」 しかしまだまだ満足はしていない。 「チャップリンではないですが、ベストは常にネクストワン。完成系なんてありません。でもミケランジェロが死の間際まで手がけていた未完成の彫刻『ロンダニーニのピエタ』は、生々しいノミの痕までが人の心に訴えかけてくる。このCDも、私の精一杯を尽くしたノミの痕を聴いていただけると思います」2015.1/3(土)15:00 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール問 渋谷区文化総合センター大和田03-3464-3252 http://www.shibu-cul.jpさくらホール ニューイヤー ジャズ・コンサートJazz × Beatles  愛こそはすべて ― All You Need Is Love ―新年をビートルズで祝う文:藤本史昭山中千尋 昨今はどのホールでも当たり前のようにニューイヤー・コンサートが行われるが、渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで開催される『ニューイヤー・ジャズ・コンサート』は一風変わった趣向で注目を集めそうだ。出演するのは世界を舞台に活躍するジャズ・ピアニスト、山中千尋が率いるクインテット。そしてテーマはビートルズ! かつて『ビコーズ』というトリビュート・アルバムを作ったほどビートルズを愛する山中が、エヴァー・グリーンな名曲たちをどう料理するのか、ジャズ・ファンならずとも興味をそそられるところだ。さらに今回は、未来を担う子どもたちに音楽を体験し発表してもらうためにスタートした「大和田レインボウ・プロジェクト」のメンバーも共演。トロンボーン奏者&編曲家である松本治の指導の下、腕を磨いた9歳から16歳までの子どもたちが、山中とともに繰り広げるステージは、新しい年の幕開けを温かな感動で彩ってくれるに違いない。

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