eぶらあぼ 2015.1月号
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54クラシック・ヨコハマ『生きる』 New Year 20152015.1/12(月・祝)15:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川芸術協会045-453-5080 http://www.kanagawa-geikyo.com野島 稔(ピアノ)演奏とは、真実を一心に伝えようとする“生きた”人間の営み取材・文:飯田有抄Interview 日本が誇る国際的ピアニストの一人で、現在東京音楽大学学長の野島稔が、小児がんと闘う子どもたちを支援するチャリティー・ニューイヤー・コンサート『生きる 2015』に出演する。十束尚宏指揮、神奈川フィルと共演するのはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番だ。 「非常にポピュラーな作品ですが、あまりにユニークで、何度聴いても演奏しても感動します。チャイコフスキーの旋律美たるや素晴らしい。このような意義あるコンサートで彼の作品を演奏できるのは幸せです」 『生きる~』は、全日本学生音楽コンクール出身の実力派アーティストたちが活躍する『クラシック・ヨコハマ』の一環として催され、同日前半にはヴァイオリン界の俊英・山根一仁も登場し、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番を披露する。若いスターと巨匠とが、一つのステージを作り上げることにも注目だ。 「山根さんの演奏は、彼がまだ中学生の時に優勝した2010年の日本音楽コンクールの本選を聴き、瞬時に『この人が一等だ』と思いました。若い時には、その年代にしかできないフレッシュな音楽があると思います。しかし音楽への新鮮な感動、音楽と自分との間に巻き起こる火花といったものは、年齢を重ねても失うべきではありません。老練や円熟といった領域に憧れはありますが、私も音楽的にはまだまだだなという気持ちです。若い山根さんとは音楽との間の火花の色は違うかもしれません。私のはもう少し地味かもしれません(笑)。しかし一音楽家としては彼も私も同じ。今回も新鮮な気持ちで演奏したいです」 野島自身も小・中学生の頃に2度、同学生音楽コンクールで優勝し、それが契機となって10歳でN響と初共演を果たし、その後の日本音楽コンクール優勝、モスクワ音楽院留学、第3回ヴァン・クライバーン国際コンクール2位というキャリアにつながった。 そんな野島は「コンクールは人と競い合う場ではなく、自分の勉強のプロセスという意識で参加していた」と静かに語る。現在では自身の名を冠した「野島稔よこすかピアノコンクール」の審査委員長を務める。 「審査の時も、私は一人の聴き手として演奏に興味・共感を寄せられるかどうかを基本に聴いています。演奏とは、その人なりに楽譜から受け取った真実を、一心に伝えようとする“生きた”人間の営みなのです。このチャリティー・コンサートで私の演奏を通じ、何かを皆さんに届けることができれば嬉しく思います」2015.2/28(土)19:00 紀尾井ホール問 プロアルテムジケ03-3943-6677 http://www.proarte.co.jp野尻多佳子 ピアノリサイタル ‘Eternal’いくつもの世界を一夜で体感文:高坂はる香 ソロ、室内楽と多方面にわたる演奏活動を行うピアニストの野尻多佳子。これまで、趣向を凝らしたテーマによるリサイタルや録音を重ねてきた彼女が、今回、「Eternal(永遠)」をテーマに、時代、地域ともさまざまな作曲家の作品を取り上げる。 冒頭はスペインから、詩情にあふれるモンポウで幕を開ける。そしてアメリカから、同じころに作曲されたバーバーのソナタと、一転して力強い響きと構造美を持つ音楽を置く。続いては古典的なドイツ、オーストリア音楽から。静かで厳格なシューベルトの「3つの小品」D.946第2番で空気を整えた後、最後に演奏されるのは、まさに輝き続ける永遠の名作、ベートーヴェンのソナタ第32番。ベートーヴェンに長きにわたり取り組み続けている野尻が、ピアノ音楽の大きな宇宙の締めくくりとなる作品に挑む。 繊細な表現力で定評のある彼女のピアノが、この多岐にわたる作品を描き分ける。一夜にしていくつもの世界を体感できる演奏会となりそうだ。
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