eぶらあぼ 2015.1月号
203/209

第4回自分と作品を晒す勇気こそがキミを磨くよ この原稿は強風で雪が舞うソウルで凍死気味に書いている。SCF(ソウル国際振付フェスティバル)の審査員として来ていて、今回でもう5年目だ。海外からディレクターも多く訪れ、出場者は韓国のみならず日本や中国などに開かれている。とくに今年は、なんと今や大御所の域に入りつつある黒田育世までが参戦してくれた。最新作『溶け合っている』のソロを再構成した圧倒的な舞台だった。他にも連続して本選進出している小池陽子や、神戸大で教鞭を執りつつ活躍中の関典子、KENTARO!!の若手・高橋萌登(たかはしもと)、平山素子らに学びソロも活発な仙田麻菜など、けっこうな実力派が揃った。 SCFの人気の理由のひとつは、各国のディレクターが本フェスで気に入った作品を自国のフェスティバルに招聘する点にある。実際オレも来年の「福岡ダンスフリンジフェスティバル」への招待作品の選出も兼ねている。昨年は石井則仁が準優勝してイスラエルに招かれた。韓国でも応募作が急増し、今回は例年の倍近い42公演を5日間で見倒すという、審査員もヘトヘトになる規模に拡大されているのである。 今回の日本作品は、お世辞でなくどれも良かった。入賞者こそなかったが、初の海外挑戦だという高橋萌登が、なんとフランスのサン・ドニに招聘されることに! おめでとう! フードをかぶってトボトボ歩く姿はまるで中学生男子のようだが、動き出すと一転して爆発的なエネルギーで会場を魅了した。高橋はストリート系をベースにはしているが、オリジナルを絡めたムーブメントを獲得している。いち早く、そして精力的にヒップホップをコンテンポラリー・ダンスに採り入れてきたフランスから彼女が評価された意義は大きい。 そして韓国のダンサーはほぼバレエベースで長い手足、身体能力も高く、グイグイ前へ押し出して観客へのアピールもすごい。その点、日本人ダンサーは熱量はあっても、内側に畳み込んでじわりと見せるように踊っている感じで、なんかね、ホッとするのである。 あとこれは今回に限らないのだが、日本人のダンス作品は、わりと同じフレーズの繰り返しが多い。日本で見ていると気にならないが、海外で他国との並びで観ると、ときに拙さに映る。即興の最中につい得意なフレーズの連発になっている場合もあれば、「振付意図として繰り返しているつもりか知らんがボキャブラリーの貧困さにしか見えない」ことも多いんで、これから挑戦する人は気をつけて。 ただまあ招聘されるのは、そのフェスの要求に合っていたという以上でも以下でもない。相性もあるので、招聘されなくても気にすることはない。作品のクオリティは、自分自身で見極めるべきものだからな。それより大事なのは「作品を、今までとは違う評価軸に晒すことが、何よりも作品とアーティストを成長させる」ということなのだ。 さて来年2月の福岡フリンジのためにオレが選んだのはキル・ソヨン。これがまたね、ちょっと驚くような演出があり、さらに強さと弱さが混在する特異なダンサーが観られるので、乞うご期待だ!Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお244

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