eぶらあぼ 2014.12月号
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46準・メルクル(指揮) 読売日本交響楽団指揮者の“履歴書”プログラム文:山崎浩太郎ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団両大家の想いをこめた捧げもの文:柴田克彦第544回 定期演奏会2015.1/16(金)19:00 サントリーホール問 読響チケットセンター0570-00-4390http://yomikyo.or.jp第626回 定期演奏会12/13(土)18:00 サントリーホール問 TOKYO SYMPHONYチケットセンター 044-520-1511第87回新潟定期演奏会12/14(日)17:00 りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館問 りゅーとぴあ 025-224-5521 http://tokyosymphony.jp 準・メルクルが読売日本交響楽団を指揮するのは、意外にも今回が初めて。そのデビュー公演にあたって選んだ曲が興味深い。なぜなら、準・メルクルの“履歴書”が含まれているからだ。シェーンベルクがオーケストレーションした、ブラームスのピアノ四重奏曲第1番である。 指揮者の個性や特徴を考えるうえで、大きなポイントになるのは、あるオーケストラと継続的な関係を持つ可能性を意識したときに、どんな曲を取り上げるかだ。 ただ一度の客演のつもりなら、少ない練習で手っとり早く演奏効果の上がる有名曲をやるだろう。しかし、その客演に重要性を感じているときには、自分の特質と長所を楽員と聴衆の双方に示すことができ、同時に、オーケストラの能力と順応性をはかることのできる曲、そのような「指揮者の履歴書」ともいうべき作品を取り上げてくる。 準・メルクルの場合、それがシェーンベ 以前ジョナサン・ノットにインタビューした際、彼は「東響では、ドイツ的な音を目指すべく、ドイツ・ロマン派の音楽を主に取り上げたい」と話していた。そして実際、今年4月の音楽監督就任以来、マーラー、シューベルト、ブラームスを軸としたプログラムで、明晰かつエネルギー溢れる演奏を披露してきた。次いでいよいよ12月、ワーグナー&ブルックナーという一方の本丸を成す大家が登場する。 曲目がまた意義深い。妻コジマへの誕生日プレゼントであるワーグナーの「ジークフリート牧歌」と、この巨匠に献呈されたブルックナーの交響曲第3番「ワーグナー」。つまり、形上の関連性に加えて、敬愛する人物との心の繋がりを示す2曲が並んでいる。まず「ジークフリート牧歌」は、ノットと東響の精緻な音作りが生きる作品ゆえに、フレッシュな快演が期待される。ブルックナーの3番は、1873年の第1稿による演奏。同ルク編曲のブラームスのピアノ四重奏曲第1番なのだ。1998年にN響に客演した初期に取りあげたときの演奏は、長く語り種になるほどの名演だったし(CD化されている)、リヨンやライプツィヒMDR響のポストを射止めるときにも、この曲で勝負したという。それを読響と演奏することには、はたしてどんな意味があるのか。そして、どんな演奏になるのか。期待と妄想(?)をふくらませて、その日を待とう。前半に置かれたシューマンのピアノ協奏曲では、俊英・金子三勇士と共演。こちらにも大いに注目したい。曲は1877年と89年に大きな改訂がなされており、第1稿(ウィーン・フィルに初演を拒否された)は、《ワルキューレ》《タンホイザー》他のワーグナー作品が引用され、ベートーヴェンの「第九」に類似しているなど、現行の第3稿とはかなり違う。今回は、ブルックナーが想いをこめた「ワーグナー」交響曲本来の姿、つまりワーグナー本人が目にしたスコアを、耳にすることができる。これは生で聴く機会が稀なので大注目だし、首席指揮者を務めるバンベルク響と壮絶な録音を実現させるなど、同稿への思い入れが強いノットだけに、渾身の名演は必至。逃せない公演となるのは、もはや言うまでもない。準・メルクルジョナサン・ノット ©K.Miura
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