eぶらあぼ 2014.12月号
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41©Mat Hennek/DGシャルル・デュトワ(指揮) NHK交響楽団 《ペレアスとメリザンド》演奏会形式実力派ソリストたちがデュトワの元に集結文:岸 純信(オペラ研究家)フォーレ四重奏団アルゲリッチも絶賛のアンサンブル文:寺西 肇第1796回 定期公演Aプログラム 12/5(金)18:00、12/7(日)15:00 NHKホール問 N響ガイド03-3465-1780 http://www.nhkso.or.jp12/12(金)19:00 トッパンホール 問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 http://www.pacific-concert.co.jp他公演 12/11(木)宗次ホール(052-265-1718)、12/14(日)横浜市港南区民文化センターひまわりの郷(045-848-0800)12/15(月)東京文化会館(小)(日本モーツァルト協会03-5467-0626) 歌劇《ペレアスとメリザンド》には独自の「2大特徴」がある。一つはテーマが「寂しさ」であること。オペラと言えば刺したり呪ったりのイメージがある中で、この傑作を支配するのは、家族にすら理解されない「心の寂寥感」なのだ。 悲劇は、アルモンド王国に迷い込んだ謎の女メリザンドが、夫で王子の中年男ゴローには馴染めないのに、彼の異父弟ペレアスにはあっさり心を許すところから始まる。二人の無邪気な絆に苦しむゴロー。猜疑心に囚われた彼は、やがて弟を刺し殺してしまい…。そう、実は本作も愛憎の物語に他ならない。でも、フランス語の繊細な抑揚と印象派ドビュッシーの柔和な音作りが、ドラマの凄惨さを深く覆い、舞台に哀感のみを漂わせる。出産したメリザンドが亡くなる終幕でも、王子たちの祖父アルケル王が「今度はこの赤子の生きる番だ」と呟くが、恐らく作曲者が最も伝えたかったのは、それに連なる 「室内楽こそが、音楽における唯一かつ真正なる形式で、最も正当な個性の表現である」。近代フランスの巨匠ガブリエル・フォーレは、かつてこう語った。その偉大な先人の名を冠し、世界的にも珍しい常設のピアノ四重奏団として、緻密で繊細、時に大胆なプレイで世界中の聴衆を感嘆させている「フォーレ四重奏団」。そんな精鋭集団が冬の日本へと降り立ち、白熱のドイツ・ロマン派プログラムを聴かせる。 ドイツ・カールスルーエ音楽大学の卒業生により、1995年に結成。アルバン・ベルク四重奏団に師事し、その室内楽演奏の極意を受け継いだ彼らは、2年後に全ドイツ音楽院コンクールで優勝。これを皮切りに、次々と受賞を重ねて、瞬く間に楽壇全体から注目される実力派アンサンブルへと成長した。彼らのレパートリーはクラシックにとどまらない。た10小節の後奏の響きだろう。透明感ある長調のハーモニーが、全ての苦しみを浄化して幕を下ろすからである。 そして、もう一つの特徴は「プロ中のプロが取り上げるオペラ」であること。名歌手ほど《ペレアス》への出演歴を誇るし、シャルル・デュトワの録音(1999年)も感情の襞を管弦楽の淡い響きで包み込む名盤として評価が高い。今回はこのマエストロがNHK交響楽団をどのように触発するのだろうか。ちなみに、N響が《ペレアス》をとえば、ビーチ・ボーイズなど古今のヒット曲を取り上げた『ポップ・ソングス』は大反響を呼び、“ドイツのグラミー賞”とも言われるエコー賞を受賞している。 来日ステージでは、ブラームスの佳品・第1番に、マーラーによる未完の作品やR.シュトラウスと、実演にはなかなか出会えない、知られざるピアノ四重奏曲取り上げるのは、1986年に若杉弘が指揮して以来2回目となる。母親役のナタリー・シュトゥッツマンを始めステファーヌ・デグー(ペレアス)、ヴァンサン・ル・テクシエ(ゴロー)、カレン・ヴルチ(メリザンド)ら、真の実力派ソリストが集うステージだけに聴き逃せない!の名品を組み合わせた。常設なれば故の、微塵の迷いすら見せぬ、鉄壁のアンサンブル。そして、磨き上げられた作品への洞察力によって、これらの作品が湛えた魅力の全てを掬い取ってゆく。「誰でも、もう一度聴きたくなる」とマルタ・アルゲリッチが評した、彼らの演奏の魔力。魅入られてしまうのも、悪くない。カレン・ヴルチ ©Cecile Hugシャルル・デュトワステファーヌ・デグー ©Julien Benhamouヴァンサン・ル・テクシエ

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