eぶらあぼ 2014.12月号
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36次の10年に向けて期待高まる充実のラインナップ東京・春・音楽祭 ―東京のオペラの森2015―取材・文:江藤光紀アレクサンドル・メルニコフ ©Barbara Luisiマレク・ヤノフスキ ©Felix Broede大野和士 ©武藤 章スヴャトスラフ・リヒテル ワーグナー《ワルキューレ》 4/4(土)、4/7(火)ベルリオーズ「レクイエム」 4/12(日)リヒテルに捧ぐ 3/21(土・祝)、3/28(土)、3/29(日)、4/2(木)『24の前奏曲』シリーズ 3/29(日)、3/31(火)、4/1(水)、4/9(木)会場:東京文化会館、上野学園石橋メモリアルホール、   東京芸術大学奏楽堂 他※音楽祭の詳細情報は下記ウェブサイトでご確認ください。http://www.tokyo-harusai.com 桜の花びらが飛び交う雅びの季節に、東京文化会館をはじめ上野の文化施設で横断的に催される東京・春・音楽祭。2014年で10年目を迎え、春の風物詩としてもすっかり定着した。博物館に来てコンサートを聴き、音楽を聴きに来て絵画に触れる。相乗効果で感興を深めた方も多いだろう。 2015年の音楽祭も魅力的な企画が満載だ。軸となるワーグナー・オペラは来年で6年目。今春から満を持して始まった《ニーベルングの指環》全4部作の上演、次回は人気の高い《ワルキューレ》が披露される。今春《ラインの黄金》を豊かに鳴らしてくれた重鎮マレク・ヤノフスキは、ワーグナー指揮者としても世界的に高い評価を得ている。キャストもロバート・ディーン・スミス(ジークムント)、エギルス・シリンス(ヴォータン)といった国際的ワーグナー歌手が勢ぞろい。またジークリンデには大ベテラン、ワルトラウト・マイヤーの参加も決定した。演奏会形式だが、舞台後方に投影される映像がストーリーの理解を助けてくれるにちがいない。玄人を任じる人のみならず、“ワーグナー入門”にも最適だ。 文化会館を本拠地とする東京都交響楽団は、来春から大野和士を音楽監督に迎える。モネ、リヨンをはじめとする欧州のオペラ座や管弦楽団をリードし、世界的指揮者へと大成した大野が満を持して東京に戻ってくる。今回取り上げられるベルリオーズ「レクイエム」は伝統的なテキストに基づいてはいるが、混声合唱と4群のバンダ(別働隊)を要する巨大な作品。現在、絶好調の都響が新シェフと繰り広げる演奏は、作品を生んだ芸術の都パリと歴史的に響きあうのではないか。精鋭からなる東京オペラシンガーズの強力な歌唱に加え、テノールをロバート・ディーン・スミスが歌う。 20世紀を代表するピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルの生誕100年を祝うシリーズ『リヒテルに捧ぐ』(計4公演)も、彼の薫陶を受けたリュドミラ・ベルリンスカヤや、長いこと来日がなかったエリーザベト・レオンスカヤといった名演奏家が登場し、ユニークだ。レオンスカヤは32年ぶりのリサイタルを開くほか、結成70周年を迎えるボロディン弦楽四重奏団とリヒテルの得意曲、シューマンとショスタコーヴィチの「ピアノ五重奏」を演奏する。リヒテルが晩年に演奏を望んだプーランクの「オーバード」が、舞踊つきで上演されるのも心憎い。 バッハが平均律クラーヴィア曲集を書いてからというもの、多くの作曲家が24曲の前奏曲集を完成させてきた。これを糸にして音楽史をたどる『24の前奏曲』シリーズも心躍る。ノーブルなタッチで私たちを魅了し続けるアレクサンドル・メルニコフが、得意のショスタコーヴィチに加えショパン、ドビュッシーという音楽の詩人を取り上げる。ドビュッシーでは同時代に製作された銘器プレイエルが、音の香りまで再現してくれそうだ。野平一郎の弾くスクリャービンも、ロマン派からモダンへの転換点を刻んでくれる。 他にも、N響メンバーによる室内楽、名手たちの歌曲シリーズ、マラソン・コンサート、さらにはアルゼンチン・タンゴまで、豪華プログラムが連日連夜目白押し。名演を肴に薀蓄を傾けあうもよし、花見の後に友人や家族と連れだって聴くもよし、美術鑑賞のついでに音楽をかじるもまたよし。自分ならではのプランを練れば楽しみも膨らみ、ほら、気付けば春まであとわずかだ。

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