eぶらあぼ 2014.10月号
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92チェロの未来は明るい!文:柴田克彦長谷川陽子&向山佳絵子プロデュースチェロ・コレクション~バッハへのオマージュ Vol.1生気に充ちたデュオで聴く楽聖の変遷文:柴田克彦マリオ・ブルネロ(チェロ)&アンドレア・ルケシーニ(ピアノ)ベートーヴェン チェロ・ソナタ全曲演奏会11/11(火)19:00 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 http://www.hakujuhall.jp第1夜 10/28(火)19:00 ソナタ第1番・第2番 他第2夜 10/29(水)19:00 ソナタ第3番~第5番 他紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp こんな発想も有り得たか!と快哉を叫びたくなるのが、11月からHakuju Hallで始まる『チェロ・コレクション~バッハへのオマージュ』、略して「チェロ・コレ」だ。これは、バッハへの敬意と、異世代チェロ奏者の交流を軸とした、未来志向の新シリーズ。長谷川陽子&向山佳絵子プロデュースによる大型企画である。 デビュー25周年を超えた人気奏者・長谷川陽子、実力派ソリストにしてN響首席奏者・向山佳絵子という同世代の名手二人が組むだけでも興味をそそられるが、さすが内容は妙味充分。 まず、同楽器の聖典「バッハ:無伴奏チェロ組曲」全6曲の中から毎回1曲を、期待の若手奏者が演奏し、俊才ひしめく日本の次世代チェリストの実力を堪能させる。第1回は、10年のミュンヘン国際音楽コンクールで第2位を受賞した横坂源が登場。既に活躍目 以前ある冊子にこう書いた。「ブルネロには“歌”があり、“濃密な音”がある。その“歌”と“音”は、開放感と内密感、陽光の輝きと孤独な心象、重厚さと爽やかさが同居した“豊饒なる音楽世界”に我々を導く。生きて呼吸するその音楽は、聴く者を惹き付けて離さない」。そんな世界屈指のチェリスト、マリオ・ブルネロが、紀尾井ホールで、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ全5曲とオペラの名旋律をテーマにした変奏曲全3曲を披露する。ブルネロは、1986年チャイコフスキー・コンクール優勝後、第一線で活躍してきた名奏者。ピアノのアンドレア・ルケシーニは、ミケランジェリ、ポリーニの後継と目される実力派だ。20年以上にわたり共演を続けるイタリア出身の二人は、互いの音楽を熟知した盟友であり、ピアノも対等なソナタの演奏にはこの上ないコンビである。 今回はチェロの“新約聖書”たる5曲を作曲順に並べた2公演。これは実に覚ましい彼が第1番を弾く。 また、聖典をモティーフにした新作を毎回異なる編成で委嘱。今回は、センス抜群のマルチな才人・加藤昌則が書いた、第1番に基づくチェロとピアノのための作品を、長谷川と加藤自らが初演する。さらに、未来へ羽ばたく10代の奏者の“たまご世代”も起用し、両プロデューサーらと共に異世代アンサンブルを披露。今回は、11年に全日本学生音楽コンクールで高校の部第1位を獲得し、現在桐朋学園のソリストディ意味深い。1番と2番は1796年、つまり初期の作で、若々しい情熱や抒情性を有している。3番は1808年の作で中期“傑作の森”の所産。明快で劇的な、同分野の最高峰だ。4番と5番は1815年に書かれた後期の入り口の作品。内省的で未来を予感させる。つまり、10曲中9曲が初期に集中しているヴァイオリン・ソナタと違って、巨匠の創作の変遷を端的に体感できるのだ。 そしてもちろん、前記したブルネロプロマコースと学習院大学独文科で学ぶ笹沼樹を交えて、ポッパーの作品や《ローエングリン》《カルメン》の編作ものなど、楽器を熟知した演奏家の名作を聴かせる。 愉しくも刺激に充ちたこの「チェロ・コレ」、好楽家は全員ご注目あれ!ならではの“生き生きと呼吸する”ベートーヴェンを堪能できるし、当時のウィーン音楽に潜む“イタリア的な歌”に光が当たる稀な機会ともなろう。至高のデュオで聴くこの2夜は、充実の時間が約束されている。向山佳絵子 ©大窪道治長谷川陽子 ©武藤 章アンドレア・ルケシーニPhoto:Andrea Marchionniマリオ・ブルネロ

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