eぶらあぼ 2014.10月号
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64©Yuri Bogomaz10/11(土)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 カジモト・イープラス0570-06-996010/13(月・祝)15:00 静岡音楽館AOI 問 静岡音楽館AOI 054-251-2200ケント・ナガノ(指揮)モントリオール交響楽団との共演10/12(日)14:00 京都コンサートホール 問 京都コンサートホール075-711-3231ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)ロシアの知られざる傑作に光を当てる取材・文:飯田有抄Interview 音楽的にも人間的にも、懐の大きさと深さを感じさせるロシアのピアニスト、ボリス・ベレゾフスキー。この秋の東京・静岡でのリサイタルのために彼が組んだプログラムは、オール・ロシアものだ。それも世に知られざる美しい作品をふんだんに並べている。 「知られざる素晴らしいピアノ曲がロシアにはたくさんあります。今僕が力を入れているのは、それらを有名曲と組み合わせてプログラムすること。ラフマニノフのソナタは第2番がよく弾かれますが、今回は第1番を取り上げます。1番は日本に限らず、ロシアを含め世界中で弾かれることは多くありません。その理由は、2番に比べると長大であり演奏技術も要するのでピアニストにとって負荷が高く、曲の終わり方があまりにも悲劇的だからかもしれませんね。映画と同様に、音楽もポジティブな雰囲気で終わる方が人気が出ますから。1番はもともとゲーテの戯曲『ファウスト』に着想を得ているので、悲劇が重要なエッセンスであり、ぞっとするような終わり方をします。でも僕は、欠点がどこにも見当たらない傑作だと思います」 激情的なラフマニノフのソナタと対照的な選曲が、メトネルのソナタ「牧歌」だ。こちらも珍しい一曲。 「タイトルは自然を眺めることで得られる心の平安や瞑想状態を表していて、東欧哲学に近しいものを感じます。メトネルは非常にドラマティックな作品を書く人ですが、まれにこうした穏やかな感情をピアニストに与えてくれます」 後半のメインとなるのはバラキレフのスケルツォとマズルカだ。マズルカというとショパンを思い浮かべてしまうが、バラキレフの特徴は? 「ショパンのマズルカは典型的なポーランド舞曲の要素が強いですが、ロシアの歴史は東方との結びつきが強いので、バラキレフのモティーフはどれも東洋的です。テクニックや華やかさはショパンの作品とよく似ていますが、スケルツォもマズルカもバラキレフの作品は全体的に東洋的幻想に満ちています」 最後はバラキレフの有名曲「イスラメイ」で締めくくる。ベレゾフスキーは「新・イスラメイを披露します」と微笑んだ。「長年の“得意曲”でしたが、少し前に自分の演奏がひどくて失望しました(笑)。その時『この曲を新しいレベルに引き上げなければ』と決心したのです。一層素晴らしい演奏で皆様にお聴かせするつもりです!」 京都ではケント・ナガノ指揮、モントリオール響とプロコフィエフの協奏曲第2番を披露する。いつも日本滞在を心から楽しむベレゾフスキーは、最後に「民族音楽に興味があるので、日本の三味線を習いたいな」と優しい声音で語った。11/5(水)19:00 トッパンホール問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.comティル・フェルナー(ピアノ)思索と成熟を重ねる俊英の“いま”文:山崎浩太郎©Peter Mathis 1972年生まれのウィーンのピアニスト、ティル・フェルナー。個性的なピアニストを輩出することで知られる、スイスのクララ・ハスキル国際ピアノコンクールの93年の優勝者である。ウィーンのピアニスト、と聞くだけで我々は何かを期待してしまう。グルダ、デームス、バドゥラ=スコダの「三羽烏」やブレンデルなどの系譜に連なるピアニストであることを、だ。そしてフェルナーは伝統に安住することなく、輝かしい継承者となる道を着実に歩んでいる。 フェルナーと今回の会場であるトッパンホールとの縁は深く、2007年の日本初リサイタル、翌年から世界各地で並行して行われたベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲シリーズ、そして11年の、テノールのマーク・パドモアとのシューベルトの三大歌曲集を開催してきた。日本における本拠地というべきこのホールでのリサイタルは、モーツァルト「ロンドイ短調K511」、バッハ「平均律クラヴィーア曲集第2巻」(抜粋)、ハイドン「ソナタニ長調Hob.ⅩⅥ-37」、シューマン「ダヴィッド同盟舞曲集」という、ドイツ王道のプログラム。思索と成熟を重ねるフェルナーの、“いま”が聴ける。

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