eぶらあぼ 2014.10月号
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今年12月、東京で行われるパーヴォ&ドイツ・カンマーフィルによるブラームス特集公演。同キャストによる演奏が今夏アメリカで一足早く繰り広げられた。 クラシック音楽の中心が郊外の音楽祭に移る夏、毎年7月から8月にリンカーン・センターで開催されるモーストリー・モーツァルト・フェスティヴァルは、ニューヨーク市内で夏場にクラシック音楽を聴く、ほぼ唯一の機会となっている。このフェスティヴァル、いわゆる座付きの祝祭管弦楽団による演奏がプログラムの中心なのだが、ニューヨークの音楽ファンにとっては、実は毎年顔ぶれが変わるゲストグループの方が、もっと刺激的で楽しみであったりする。8月7日に同フェスティヴァルの一環として行われたパーヴォ・ヤルヴィ指揮、ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団による演奏会は、そんなニューヨーカーの期待を反映してか、満席となった。 プログラムは、「大学祝典序曲」に始まるオール・ブラームス。ブラームスというと、ヘヴィーでダーク、分厚い…と言ったイメージがあると思う。暑苦しい都会の夏には、ちょっと重いなと感じた観客もいたことだろう。しかしヤルヴィとドイツ・カンマーフィルは、そんな偏見をあっさりと覆してくれた。 ヤルヴィの指揮は、弾力性に富んだテンポを取りながらも、独裁者のようにグイグイ引っ張る押しつけがましさがない。だからなのだろう、メンバーから放出される頑健でリッチなサウンドも、オーケストラと指揮者の自然な呼吸感そのままに、柔らかにホールを満たす。ブラームスの交響曲第2番の伸びやかな雰囲気に寄り添った一人ひとりのメンバーの息づかいが、要所要所で笑顔を交わすメンバーの表情にも感じられる。それはもちろん高笑いではなくて、思わず溢れ出る静かな微笑みだ。これはなによりも、ヤルヴィとメンバーの信頼感の賜物に違いない。 ピアノ協奏曲第1番のソリスト、ラルス・フォークトとの共演でも、音楽家達の信頼感は変わらない。一つひとつの音が際立つ推進力あるフォークトのピアノは、協奏曲全体の音楽のフォームからはみ出しそうではみ出さない。その心地よい緊張感をシェアした満場の観客の熱気に、アンコールで応えるフォークト、ヤルヴィとオーケストラ。室内管弦楽団によるブラームスの魅力を、満喫させてくれた夏の午後であった。文:小林伸太郎(音楽ジャーナリスト/NY在住)パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団「ブラームス・シンフォニック・クロノロジー」ピアノ:ラルス・フォークト(12/10、12/13)ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ(12/11、12/14)チェロ:ターニャ・テツラフ(12/14)12/10(水)19:00 ピアノ協奏曲第1番、交響曲第1番12/11(木)19:00 ヴァイオリン協奏曲、交響曲第2番 他12/13(土)15:00 ピアノ協奏曲第2番、交響曲第3番 他12/14(日)15:00 ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 交響曲第4番 他会場:東京オペラシティ コンサートホール各日 S:¥13,000 A:¥11,000(僅少) B:¥9,000(僅少)   C・D:終了 4公演セット券:S¥48,000[全て全席指定・税込]問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999www.operacity.jpInformationニューヨークの聴衆たちを熱く沸かせたパーヴォ&ドイツ・カンマーフィルのブラームス!パーヴォ・ヤルヴィ(指揮) ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団ピアノ:ラルス・フォークト©Richard Termineパーヴォ・ヤルヴィ(指揮) ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団ニューヨーク公演リポート

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