eぶらあぼ 2014.10月号
45/257

 ファビオ・ビオンディとピリオド楽器のオーケストラ、エウローパ・ガランテらによる《バヤゼット》の名演(06年、神奈川県立音楽堂)は今でも語り草になっているが、今度は《メッセニアの神託》である。1738年、ヴェニツィアでの初演後、ヴィヴァルディがウィーン再演を願いつつも、数奇な運命に翻弄され、貧困のうちに客死。その半年後、1742年に上演されたというパスティッチョ・オペラだ。パスティッチョとは自作多作の楽曲を寄せ集めた作品のこと。ジャコメッティの《メローペ》(台本はゼーノ)を下地に、ジャコメッリやヴィヴァルディらの曲で構成される、王家乗っ取りの謀略と敵討ちと愛の人間ドラマである。楽譜が失われているので、「幻のオペラ」とされてきたが、2年前にビオンディがウィーン版をもとに、復元。ウィーンにおける上演およびCD録音後、各地で演奏されているが、今回、演出付きの上演としては世界初となる。演出を手掛けるのはカウンターテナー歌手でバロック・オペラに造詣の深い彌勒忠史。先頃、アントネッロによるモンテヴェルディのオペラ・シリーズの独創的な舞台でファンを楽しませたばかりだ。 当時のオペラは魅力的なアリアが次々と出てくる、歌のエンターテインメント。映画『カストラート』でファリネッリが歌ったプロスキの名曲もある。キャストは主役の2人を除いてビオンディのCDとほぼ同じ。ヴィヴィカ・ジュノーら欧州で活躍する一流歌手たちの歌の名人芸に酔いしれたい。(文:那須田務) 2015年1月に開館40周年を迎える神奈川県民ホール。これまでに、團伊玖麿作曲のオペラ《素戔鳴》《ひかりごけ》《ちゃんちき》、三善晃作曲《遠い帆》、一柳慧作曲《モモ》《愛の白夜》などの、日本人作曲家によるオペラ作品を世に送り出してきた。また、小ホールでは、同じく一柳作曲によるオペラ《ハーメルンの笛吹き男》を12年に世界初演し話題となったことも記憶に新しい。このように、日本におけるオペラの様々な可能性に積極的に取り組んできた同ホールが、開館40周年という記念の年に上演するのが、この、一柳慧作曲大岡信台本によるオペラ《水炎伝説》である。これは、05年に混声合唱とピアノのための作品として発表されたもので、今回、一柳自身の手により管弦楽版に編曲され、新しいすがたとなって上演の運びとなった。 演出・振付・美術を手がける中村恩恵は、神奈川県出身で、ネザーランドダンスシアターに所属し活躍後、しばらくオランダを本拠地にしていた。これが自身初のオペラ演出となるが、舞踊家・振付家として国内外で高い評価を受けている中村が、神話的世界における「死と再生の物語」を描いたこの作品をどのように解釈するのか、またダンスとオペラをどのように融合させるのか、非常に楽しみだ。指揮は、特に現代作品に定評のある気鋭の指揮者、板倉康明。合唱と管弦楽は、この上演のために結成された特別編成のアンサンブルになる。小ホールの特性を活かした、濃密で緻密な舞台を期待したい。(文:室田尚子)開館40周年を迎える神奈川県民ホール、そして開館60周年を迎える神奈川県立音楽堂。2015年、そのアニバーサリーにふさわしいオペラ3本がたてつづけに上演される。バロック・オペラから現代オペラまで多様な世界を存分に味わいたい。《水炎伝説》《メッセニアの神託》《オテロ》Ⅰ《水炎伝説》~管弦楽版で生まれ変わる神話的な世界Ⅱ《メッセニアの神託》~ヴィヴァルディ幻のオペラ、復活上演バロックから新作まで話題の演目を一挙紹介ファビオ・ビオンディ板倉康明©Eric MANAS中村恩恵一柳 慧©Koh Okabeヴィヴィカ・ジュノーエウローパ・ガランテ神奈川でオペラを満喫

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です