eぶらあぼ 2014.10月号
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37 ダニエル・ハーディングは、新日本フィルハーモニー交響楽団のMusic Partner of NJPとして、今秋5シーズン目を迎える。これまでもマーラーをはじめ数々の名演を残してきたが、より関係を深めた今後の共演への期待も大きい。そこでまずは新日本フィルへの思いをきいてみよう。「少しずつ、しかし確実に信頼が深まっていることを、うれしく思います。私は、オーケストラの団員一人ひとりが音楽を身体の奥から発することや、コミュニケーションの大切さを話してきました。それらの達成の有無が今後も重要なポイントになっていくでしょう。プログラミングに関しては、マーラーのプロジェクトを徐々に進めているところです。今年5月~6月にプロジェクトとして取り上げたブラームスは、マーラーよりも作品構成のより深い理解が求められるのですが、高い成果をあげられたと思います」 2014/15シーズンは4つのプログラムを指揮する。 11月最初はマーラーの交響曲第4番がメイン。「マーラーはまず、プロジェクトの継続に意義があります。それに私自身大好きな作曲家で、新日本フィルも卓越した対応力をもっていますから、高いレベルでの演奏が可能です。ただ4番は過小評価してはいけない作品。古典的でシンプルと思われがちですが、スケールの大きな第3楽章をはじめ、非常に複雑な要素が含まれています」 前半の「子供の魔法の角笛」共々、ソプラノのリサ・ミルンが独唱を務める。「彼女は4番を含めて長年共演している歌手。美しくピュアな声をもち、子供のような透明感と成熟した深みを兼ね備えています」 11月のもう1つのプログラムは、8番以来3年ぶりとなるブルックナーの交響曲第5番。若干意外に映る選曲だが、彼は自信を漲らせる。「ブルックナーはヨーロッパで何回も指揮しており、中でも一番演奏してきた5番を、日本の皆さんに披露したいと考えました。5番は彼の最も偉大な交響曲のひとつ。ただしこの曲が聴きやすいなどという嘘をつく気は毛頭ありません。逆に“難しい”作品と言ってもいいでしょう。それでも作品の奥深さゆえ、愛好家に支持されています。ここで大口を叩くリスクをあえて冒しますが、私は、この曲のキャラクターと構造を浮き彫りにするためのアイディアと、曲のあるべき姿に対する明確な考えをもっています。ですから、なぜこの曲が素晴らしいのか、なぜ私が聴かせたいのかを感じ取っていただけるような演奏をしたいと思っています」 ブルックナーへの思いはことのほか熱い。「ブルックナーの演奏では犯しやすい誤りが2つあります。1つ目はキャラクターの設定を全て同じパターンにすること。重厚な教会音楽的要素があるのは確かですが、実は田舎のフォークダンス的な軽やかさや土着的な要素もあります。ですから全てをシリアスに重くやるのは大きな誤りで、そこにはシューベルトに近い側面があることを忘れてはいけません。2つ目はコラール。全部の音を一様に演奏してはなりません。細部にシェイプ(形・状態)があり、詩が付されているような豊かさがあります。そうした色彩感や明暗に気を配りながら演奏することが大切です」 来年7月最初はブラームスの管弦楽曲とピアノ協奏曲第2番。盟友ラルス・フォークトが独奏を務める。「我々が相当な力を投入した2013/14シーズンのプロジェクトを引き継ぐ公演です。ブラームスで目指すのは、室内楽的ながらスリム過ぎず、対話の要素があり、温かみと厚みと透明感が同時に存在する演奏。フォークトは20年来最も多く共演しているピアニストの一人で、美しく深い音をもち、音楽に対する造詣が深く、感情表現も豊かです」 7月の最後は、十八番ともいえるマーラーの交響曲第2番「復活」。「1、4、5楽章は音楽自体が語ってくれますが、2楽章と3楽章はかなり難しい。特に、2楽章のオーストリア的な舞曲には、2拍目に微妙なニュアンスがあり、音楽の流れをうまく見極めなくてはなりません。こんなところでこそ、ブラームス・プロジェクトで培った作品への理解力を活かすことができるはずです」 話を聞くとぜひ聴きたくなる公演ばかり。人気指揮者が振る大曲プログラムを、お見逃しなく!新日本フィルとの信頼関係は確実に深まっていますProle1975年、イギリス生まれ。94年にバーミンガム市交響楽団を指揮してプロ・デビュー。さらに96年にはベルリン・フィルとのデビューを飾り、ロンドンのBBCプロムスに史上最年少指揮者として登場。スウェーデン放送交響楽団音楽監督、ロンドン交響楽団首席客演指揮者を務め、マーラー・チェンバー・オーケストラ終身桂冠指揮者。10/11年シーズンから新日本フィルハーモニー交響楽団“Music Partner of NJP”に就任した。2012年4月より軽井沢大賀ホールの芸術監督。ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、バイエルン放送響、スカラ座、ニューヨーク・フィルなどに定期的に出演している。オフィシャル・ウェブサイト http://www.danielharding.com取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭

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