eぶらあぼ 2014.10月号
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306Kバレエ カンパニー 『カルメン』3カップルが魅せる人間ドラマに期待文:上野房子 熊川哲也率いるKバレエ カンパニーが、今年、2作目となる全幕の新作を発表する。世界の名だたるオペラハウスで舞台美術を手がけるダニエル・オストリング、衣裳デザイナーのマーラ・ブルーメンフェルドと共に創作する『カルメン』全2幕。同名オペラとも、ローラン・プティやマッツ・エックらの先達が手がけた全1幕のバレエとも一線を画する、今の熊川だからこそ描けるドラマが誕生しようとしている。 物語の舞台はスペインのセビリア、時は1800年代前半。すなわち、メリメの小説が発表された時代。そこで竜騎兵ドン・ホセとタバコ工場で働くロマ(ジプシー)カルメンの、道ならぬ恋が繰り広げられる。 他のプロダクションとは異なり、ホセの婚約者ミケーラやカルメンが夢中になる闘牛士エスカミーリョに加えて、ホセを取り巻く竜騎兵や盗賊の一味にも見せ場が与えられ、各々の人物像が描き込まれている。 熊川がカンパニーを設立して15年、全幕をオリジナル版として発表してから10年余になる。手練のディレクター・演出家・振付家として、彼はより深い表現に挑むのだ。 従って、ホセと標題役カルメンの演じ手には、魅惑的な容姿、確固たる技術、酸いも甘いも噛み分ける演技力が求められる。世間知らずの貴族や妖精ではなく、恋に胸を焦がし、闇社会に堕ちていく人間の生き様を舞台で演じなくてはならないのだから。 今回、熊川は白石あゆ美とロベルタ・マルケスと組んで自らホセ役を演じるが、さらに3組を主役に起用する。 まず、宮尾俊太郎と佐々部佳代。甘いマスクの長身貴公子、宮尾にとって、ホセは彼のイメージを覆す役柄かもしれない。とはいえ、Kバレエのレパートリーとなっているローラン・プティ版『カルメン』全1幕でホセを経験済み。熊川版の”違い”をもっとも敏感に咀嚼してくれることだろう。 佐々部は、入団間もない2012年夏、『ラプソディ』で熊川の相手役に大抜10/9(木)~10/26(日) Bunkamuraオーチャードホール 問 チケットスペース03-3234-9999 http://k-ballet.co.jp※他公演(名古屋、大阪、福岡、香川、宮城)もあり擢され主演デビューを果たして以来、シーズン毎に持ち役を拡充してきた。的確な技巧と清楚な表情が魅力の新鋭バレリーナが、『カルメン』でキャリアの新たなステージに進む。 遅沢佑介と浅川紫織は、今日のカンパニーの屋台骨を支えるプリンシパルだ。王子から憎々しい敵役まで、Kバレエでもっとも多様な役柄を踊ってきた遅沢の持ち味は、男らしい風貌と豪快なテクニック。彼ならではのホセ像の誕生に期待したい。 同じく舞台経験が豊富な浅川は、今年6月に上演された『ロミオとジュリエット』で主役を演じ、奔放な表情を見せたことが記憶に新しい。大人の色香を醸し出せる、頼もしいバレリーナである。 今回のキャスティングの最大のサプライズは、福田昂平と神戸里奈。Kバレエスクールを経て、2009年に入団した福田は、昨年のKバレエユース公演で主演を務めるなど、熊川が手塩にかけて育成した“生え抜き”。その爽やかなルックスで注目を浴びているが、本作がKバレエでの初主演作となる。 一方の神戸は、可憐なプリンセス役が誰よりも似合う清純派。ローザンヌ国際バレエコンクールでエスポワール賞とコンテンポラリー・ヴァリエーション賞をダブル受賞した実力者として、私達の知らない顔を見せて欲しい。 『カルメン』は、熊川がこれまでに手がけてきたバレエとは異なる、男女の生々しい愛憎を題材にした作品だ。「本作を機に新たなフィールドに進む」とのコメントを彼が発表している通り、主役を託されたダンサーたちにとっても、各自の立ち位置から大きく踏み出す機会となる。彼らの新生面に期待したい。遅沢佑介神戸里奈佐々部佳代福田昂平宮尾俊太郎浅川紫織
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