eぶらあぼ 2014.9月号
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アメリカにゆかりの深い指揮者キンボー・イシイとピアニスト・三舩優子が、9月の神奈川フィル定期でアメリカ音楽を披露する。そこで公演に向けてお二人から話をきいた。 まずは神奈川フィルへの思いを。三舩(以下M)「フレンドリーでファミリー的な、一緒に音楽を作るのが心地よいオーケストラ。何度も共演していますし、これまでもアメリカの作品が多いのですが、今回演奏するバーンスタイン作品は一生に何回も弾ける曲ではないので、特に楽しみにしています」キンボー・イシイ(以下K)「2010年と12年に客演し、最初はやはりアメリカものでした。良いケミストリーが生まれ、愉しく音楽を作っていけるので、指揮するのが楽しみです」 日本とアメリカ暮らしの経験がある二人。1990~92年には共にジュリアード音楽院で学んでもいる。 K「現在の拠点はドイツですが、日本で幼少期を過ごした後ウィーンに移り、19歳から20年ほどニューヨークにいました。三舩さんは当時から“スター”で、近寄れる雰囲気ではなかったですね(笑)」 M「小学校時代をニュージャージーで過ごした後日本に戻り、再びジュリアードに留学しました。キンボーさんは、よくお見かけしていましたよ」 時を経て今回が初共演。演目はピアノ独奏を有するバーンスタインの交響曲第2番「不安の時代」だ。 K「英国出身の詩人オーデンの詩に沿って書かれた、現代にも通じるテーマ性をもつ作品です。詩は4人の登場人物が“会話する”長大なもので、『世の中は“永遠に悲劇”であり、いかに楽観的なことがあっても、最後は崩壊や不安に帰する…』といった内容。これは聴けば伝わると思います。例えば、第1部の『7つの時代』『7つの段階』は各々変奏曲で、人生を7つに分けて空想の旅をします。幼少期や恋愛歴等が語られ、『ではどうしたらいいのか?』を示す後者では、速いリズムが動き出します。しかし音を追うだけで大変な上に、具体的な中身や、『死に至る人生の中で、どんな希望や理想が求められるのか? しかしそれらも結局はナンセンス』などのコンテンツを音だけで示すのはとても難しい」 M「ただ、基本的なテーマだけでも知った上で聴くと、何かを感じていただけるのではないでしょうか」 ピアノを中心にジャジーな音楽が展開される第2部の「仮面劇」も印象的。 M「ピアニストとして一番気持ちのいい部分。覚醒していくような明るい音型です。でも私には、どこか追い立てられていて、単純にノッて弾く部分ではないように感じられます。それにこの曲は、テクニカルな意味で非常に難しい。その上、協奏曲とは違い、オーケストラの中に入って演奏しなければいけません。そこが面白く、ソリストとしてはチャレンジでもあります」 バーンスタインに対するイメージは? K「ニューヨーク・フィルでの最期の公演を聴いたのですが、感激しすぎて聴いた後に立つことができなかったですね。また私がウィーンにいた時、彼はウィーン・フィルを頻繁に振っていたので、リハーサルを何度も見ました。ユダヤ系のアメリカ人がこの楽団で影響力を発揮したのは凄いこと。作曲家としても“アメリカ版のバルトーク”ともいえる天才だと思います」 M「私は『キャンディード』序曲のピアノ版をCDに録音していますが、やはりオーケストラ曲が素晴らしい。それに最近、顔の表情だけで指揮する映像を見て、凄いカリスマ性を感じました」 前半は、ガーシュインの「キューバ序曲」と「パリのアメリカ人」。定期でまとめて聴く機会は意外に稀少ゆえ、こちらも楽しみだ。 K「2曲ともガーシュインの目から見た“異国もの”。『キューバ序曲』では、クラベス、ギロほかエキゾティックな打楽器が多数用いられ、キーになるリズムを奏でる点が聴きどころ。『パリのアメリカ人』は、構造的に無駄がない名曲です」 最後にお互いへの期待を。 K「アメリカ作品を多く弾かれており、『不安の時代』の難しさも理解されているので、もう安心。かつて近寄り難かった方との共演が実現し、ワクワクしています」 M「アメリカものでは、英語を話される方の感覚がとても大事だと思います。微妙なノリや表現を感覚でわかりあえるのは、その時点で楽。私も共演できることが凄く嬉しいですね」期待が高まるアメリカからの風取材・文:柴田克彦 写真:武藤 章指揮:キンボー・イシイ ピアノ:三舩優子ガーシュイン/キューバ序曲、パリのアメリカ人バーンスタイン/交響曲第2番「不安の時代」発売中 S 6000円 A 4500円 B 3000円 U25ユース1000円U25ユースは公演当日に25歳以下の方が対象、当日券がある場合のみ会場窓口にて開演30分前より全席1000円で販売します。【チケットのお求め】神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107(平日10:00~18:00)http://www.kanaphil.or.jp神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会 みなとみらいシリーズ第302回 アメリカ音楽の光と陰― 「不安の時代」に寄せて2014年9月20日(土)14:00 横浜みなとみらいホールInformation
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