eぶらあぼ 2014.9月号
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30 2010年から東京都交響楽団の首席客演指揮者を務める俊才フルシャが、この9月、チェコ音楽の深き世界を披露する。6月のスーク・プログラムに続く意欲的な演目は、都響への信頼の証しでもある。「彼らとは幸せな関係が築けたと思います。同僚や家族、チームの一員になった気がしますし、いつもリラックスして仕事ができます。都響は、アンサンブル能力がずば抜けており、大きく力強い音と繊細で柔らかな音を奏で、豊かなカンタービレや瑞々しい果実のような音色を表現できます。また『春の祭典』の次にスークを演奏しても自在に様式を変えられるので、私は本当に恵まれていると感じます」 9月8日は、マルティヌーの交響曲第4番とカンタータ「花束」。ちなみに彼は、国際マルティヌー協会の会長でもある。「チェコの定番たるスメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクに続く作曲家。私は昔から大ファンで、その音楽の紹介を推進したい、彼の様々な側面を聴いて欲しいとの思いからこのプロを組みました。また以前に都響で交響曲や協奏曲を演奏した際、彼らがマルティヌーの音楽を理解し、前向きに受け止めていると感じましたので、今回のコンセプトに至りました」 交響曲第4番は、幻想的かつ明るく伸びやかな逸品。「都響では3番と6番を取り上げましたので、次は自ずとポピュラーな4番になります。6曲の交響曲の中では演奏回数も多く、最もわかりやすい作品。方向性が明確かつ前向きで、聴く人に疑問が残りません」 ここで話はマルティヌーの音楽的背景に及ぶ。「彼の音楽は大きく3つの影響を受けています。1つ目は母国チェコの民謡、2つ目はドビュッシーをはじめとするフランス音楽、3つ目は合奏協奏曲のような古い形式。第二次大戦を機にフランスからアメリカに移住後、立て続けに作曲した交響曲は、フランス的な音の世界を持ちながら、確固とした様式で書かれています。さらには、アメリカのオーケストラの雄大なサウンドの影響も受けており、打楽器を多用した大きな編成を要します。でも不思議と重く響くことがありません。これもフランスの影響でしょう」 カンタータ「花束」には、4部の独唱と合唱に児童合唱も加わる。「こちらはチェコの民謡の要素が前面に出ています。アメリカの大都市で幅広い聴衆に向けて書いたのが交響曲ならば、『花束』は祖国から送る絵葉書のようなもの。チェコに古くから伝わる歌詞をもち、殺人を悔やむ気持ちや人のモラルがテーマになっていますが、やはり暗くも重くもなく、新鮮で民謡的な純粋さを有しています」 9月14日は、1908年チェコ生まれの作曲家ミロスラフ・カベラーチの「時の神秘~大オーケストラのためのパッサカリア~」(日本初演)と、ブラームスの交響曲第4番。「『時の神秘』は大好きな作品です。今シーズン、ヘルシンキとウィーンで演奏し、とても喜ばれました。カベラーチはマルティヌーに次ぐ交響曲作曲家でありながら、生涯チェコにいて、国外での演奏機会に恵まれませんでした。この曲で表現されているのは、『無から生まれ、無に消えて行く宇宙』。それは力強く勢いのある宇宙ですが、全体が瞑想的な雰囲気に包まれています。しかしとても聴きやすく、中世の音楽のようでもあります」 後半のブラームスは意外だが…。「ブラームスもぜひ都響で演奏したかった作曲家。無名曲には有名曲を組み合わせるのが良いと思いますし、ブラームスの終曲はパッサカリアなので、その繋がりもあります。この2人の共通点は、小さな要素を膨らませて大きな音楽を作ること。ブラームスの4番は、モチーフがモザイクのように重ねられて大きな形になり、カベラーチの曲は、小さな細胞をモチーフとしながら長いテーマが並行して動き、突然ポリフォニーと化します」 当コンビの充実ぶりは、先頃リリースされたR.シュトラウス「アルプス交響曲」のライヴ録音で知ることができる。「オーケストラの状態がよくわかる作品であり、現在の都響の高いレベルを知るに相応しい演奏です。多くの皆様に聴いて欲しいですね」 今後も「スークとマルティヌーを紹介していきたい」と語るフルシャ。都響との清新なコラボから、ますます目が離せない。ヤクブ・フルシャJakub Hrůša/指揮信頼厚き都響と導く、チェコ音楽の再発見取材・文:柴田克彦 写真:青柳 聡

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