eぶらあぼ 2014.9月号
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28 ヴァイオリニストの諏訪内晶子が芸術監督を務めることで話題の『国際音楽祭NIPPON』。リゾート地ではなく、あえて街中で開催することで、クラシック音楽を聴く楽しみを日常生活に加えて欲しいという願いが込められた企画だ。その第3回目が、今年の10~12月に、名古屋、横浜、郡山の3都市で開催される。演奏家として、教育者として、そしてプロデューサーとして、この音楽祭に全身全霊を傾けて取り組む。「チャイコフスキー国際コンクールから優勝して20年あまり、演奏家としてこれまでに出会った多くの方々から学んだこと、知識や経験を自分の中だけに蓄積するのではなく、若い世代にも夢を託して社会に“恩返し”をしたい。『国際音楽祭NIPPON』は、そんな思いから生まれました」 今回も豪華な顔ぶれが集う。その目玉公演のひとつ、パーヴォ・ヤルヴィが指揮するドイツ・カンマーフィルと諏訪内の共演では、メンデルスゾーンの協奏曲ホ短調を演奏する。「メンデルスゾーンの協奏曲は、過去にも何度かパーヴォさんの指揮でパリ管と共演しています。ドイツ・カンマーフィルもまた素晴らしい楽団なので、演奏を通して緻密で洗練された対話をするのが楽しみです」 この傑作の後に続くのが、今回のために委嘱した新作、カロル・ベッファの協奏曲だ。「ベッファさんは、私と同世代のポーランド系フランス・スイス人作曲家で、ピアノの即興演奏や、歴史学、哲学、経済学などにも精通したマルチな才能の持ち主。私は以前から友人を通して知っていましたが、パーヴォさんとも親交が深いので、二人で相談して委嘱を決めました。いわゆる難解な現代音楽とは異なり、耳になじみやすいメロディが使われますが、先日作曲の経過を拝見したところでは、技巧的には相当難しくなりそうです」 横浜で行われるデュオ・リサイタルでは、エンリコ・パーチェと初共演。フランク・ペーター・ツィンマーマンやレオニダス・カヴァコスも絶大な信頼を寄せる名ピアニストだ。モーツァルトのソナタ第22番や、R.シュトラウスのソナタといった名曲が並ぶプログラムにも期待が高まる。「昔、ツアー中に彼の演奏をラジオで聴いて以来、いつか共演したいと思っていました。その時のプログラムが、奇しくもR.シュトラウスのソナタ。私は学生時代に彼の全オペラを勉強したことがあり、オペラ的要素が詰まった第2楽章に強く惹かれます。モーツァルトのイ長調のソナタは、この作品との相性を考えて、パーチェさんが選んでくれました」 名古屋では、今やこの音楽祭の顔となった当代きってのチェリスト、ピーター・ウィスペルウェイが登場。十八番のJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲から第2&6番などを能楽堂で披露する。「私自身、彼が弾くエネルギッシュでイマジネーション豊かなバッハが大好きです」 そして、この音楽祭の柱のひとつである東日本大震災の被災者を支援するチャリティ公演。今回は、ケント・ナガノ率いるモントリオール響が郡山(10/15 郡山女子大学建学記念講堂大ホール)に赴く。「日系人である彼は、阪神・淡路大震災の頃から日本でのチャリティに積極的でした。今回の公演では、ラヴェル『マ・メール・ロワ』や、ムソルグスキー(ラヴェル編)『展覧会の絵』といった名曲に加え、日本の歌曲を管弦楽用に編曲した特別プログラムも用意してくださるとのこと。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」 こうした注目公演に加え、「0歳児から聴くコンサート」(名古屋)、「美術館コンサート」(横浜)といった好企画が目白押しなのも、『国際音楽祭NIPPON』の魅力。諏訪内はさらに、多忙な合間を縫って、今回も次世代の若い才能を育てるためのマスタークラスを開催するというから頭が下がる。「今回はヴァイオリンの講師として、ピエール・アモイヤルさんにも加わっていただきます。ハイフェッツの弟子だった彼は、教育者としても多くの若手を指導されています。前回のエリザベート王妃国際コンクールのヴァイオリン部門優勝者も彼のお弟子さんです。濃密で的確なレッスンをされると期待しています」諏訪内晶子Akiko Suwanai 芸術監督/ヴァイオリン日常にクラシック音楽を聴く楽しみを加えたい取材・文:渡辺謙太郎
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