eぶらあぼ 2014.9月号
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第2回テクニックがあるのに、ダンスにならない 前回は各方面の皆さんに毒を垂れたところなので、今回はちょっとダンス界豆知識をご披露しよう。 世の中には「ダンス酔話会(すいわかい)」というものがありましてな。読んで字の如く、「酔った状態でダンスの話をする会」である。誰が? 旨い酒とダンス好きがいるところ、ゆらりと現れる舞踊評論家…オレだ! 日本各地で、しかも公共劇場や全くの個人が企画してくれている。だんだん、廃墟でやったり、会場を一晩限りの居酒屋にして暖簾まで柿渋染めで作ったり、京町家を一軒丸ごと借りて泊まり込んだり、静岡で緑茶リキュールを使ったカクテルを飲みながら等々、ちょっとフリーダムすぎる企画が増えてきている今日この頃だ。 先日の、夏の酔話会@京町家では、その前にフィリップ・ドゥクフレ『パノラマ』の合同鑑賞も織り込まれた。彼はコンテンポラリー・ダンス草創期を支えたフランスの振付家で、視覚トリックをバンバンに使い、老若男女を問わずファンが多い。今作は、約30年間の過去作品を再編集したベスト版なのである。これに先立ち、オレが東京で彼と対談をしたとき、印象に残っている言葉がある。 「30年前の作品の振付を今の若いダンサーにやらせると、技術的には問題なく踊れるのだが、ダンスとしては全く面白くないので苦労した」というのだ。同じことは1990年代に最先端にいたウィリアム・フォーサイスという振付家にも当てはまる。彼は「バレエダンサーに、バレエではやってはいけないとされていた動き(身体のバランスを崩したまま踊る等)」を強要し、ダンサーが無理をしながらギリギリ踊るというスタイルで人気を得た。しかしあまりにも皆が彼のスタイルを学んだ結果、いまでは誰もが難なく踊りこなすので、つまらなくなってしまったのである。かつて最高難度だった体操のウルトラC技が、今では高校生でもやっているようなものだ。しかし「体操」ならばOKなことが、「ダンス」としてはダメなのだ、とドゥクフレは言っているのである。そこが難しいところだ。 ダンスにとって技術の問題は「基本がなければダメだが、技術だけ見せられても鼻持ちならない。それよりはシロウトの一瞬の燦めきがまぶしく映ることもある」という、常に痛し痒しの問題なのである。 ま、個人的にオレは、ダンスは“動きの衝撃”であってほしいタイプである。シロウトのきらめきばっかり1時間も見ていられねえよ。 さてこの号が出る頃は、9月から始まる新しいフェスティバル※も間近だ。山下残がルーマニアのアーティストとコラボレートする作品に、オレはドラマトゥルクとして関わるのでよろしくね。そしてサブプログラムとして「ダンス酔話会@DNA東京」が開催される! しかし先日手元に届いたチラシには「酸3話会」と誤植されているので、酒ではなく、なにか酸っぱいものを大量に振る舞う会になるかもしれないけれども!Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリーダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。乗越たかお※本誌249ページの記事もお読み下さい。252

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