eぶらあぼ 2014.8月号
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モーリス・ベジャールが1964年に創作した大作バレエが、パリ・オペラ座来日公演以来15年ぶりに、日本のバレエ団によって初めて上演されようとしている。奇しくも同年に誕生した東京バレエ団の、創立50周年記念シリーズ第7弾『第九交響曲』。同団と共に兄弟バレエ団であるモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)のダンサーが出演、さらにオーケストラと合唱団も合流し、総勢350人ものアーティストが祝祭スペクタクルを繰り広げる。 東京バレエ団は、まず地・火・水・風の〈地〉を象徴する第1楽章に登場し、フィナーレの第4楽章ではBBLとの共演が予定されている。プリンシパル上野水香と共に、柄本弾がソリストに起用された。「初演が50年も前だったということを感じさせないパワーに満ちた作品です。大地から涌き上がる力強さを表現しつつ、東京バレエ団ならではの、息の合ったアンサンブルと完成度の高いソロを作り上げたい。ベジャール・バレエ団との共演も楽しみです。彼らは強烈な個性を持った、ベジャール作品のスペシャリスト集団。大いに触発されたいですね」 2008年の入団以来、柄本弾は『ザ・カブキ』の大星由良之助を始め、数多くのベジャール作品で主要パートを踊ってきた。「由良之助は先頭に立って周囲を引っ張っていく役ですが、『第九交響曲』のソリストはソロやデュエットを踊り、群舞にまじる場面もある。ベジャール作品には、楽に踊れるものは一つとしてありません。太腿、腕、指先まで古典バレエとは違う使い方をするので、正直、しんどいです。さらに、こう踊るべきだという絶対的な型がなく、自分ならではの色合いを加えることが求められる。だから、もっと良く踊りたいという欲が出てくるんですね」 ベジャール作品を踊る醍醐味を語る柄本の目は、舞台での彼同様、生き生きと輝いている。「自分自身、舞台を楽しんでいるから、そんな風に言っていただけるのかな。ここ1年、立て続けに大きな役を踊る機会に恵まれました。振付家が誰だろうと、共演者が誰だろうと、対等の立ち場で作品に参加するんだ、と自分を奮い立たせています」 昨秋、東京バレエ団がマッツ・エック版『カルメン』を初上演した際、キザな闘牛士エスカミリオになりきった柄本が、標題役のシルヴィ・ギエムと対等にわたりあったことは記憶に新しい。「猛スピードで疾走する、短距離走のような作品でした。エックさんからは、エスカミリオが何者かが一瞬で伝わるよう、登場場面のジャンプに全力を注げ!と言われました。かと思うと低い体勢の動きが多く、身体の使い方を細かく修正されました。ギエムさんの器の大きさも印象に残っています。リハーサルの後に、何気なくアドバイスをくれる。視野が広く、周囲に目が行き届いているんですね」 今年2月のジョン・ノイマイヤー版『ロミオとジュリエット』では、標題役に扮して熱い演技を披露した。「感情表現について、徹底的に注意されました。ノイマイヤーさんは、ロミオの内面を描き出すために、視線、手の出し方といった細部にまでこだわりをお持ちです。振付家の思いを理解し、自分ならではの踊りを作り上げていく。それが演技者の責任なのだと改めて教えられました。この一年間の経験で、引き出しの中味が増えたように感じています」 『第九交響曲』に先だつ9月には、『ドン・キホーテ』の主役デビューが控えている。演出・振付を手がけたウラジーミル・ワシーリエフ本人が来日、指導にあたる。「最初から最後まで陽気に踊り続けるキャラクターを演じるのは、初めてです。ワシーリエフさんはダンサーに合わせて、柔軟に演出を改訂されるそうなので伝説のダンサーが僕という素材を使って、どのようなバジルを作ってくれるのか。おまけにデヴィッド・ホールバーグさんとのダブルキャストですから、吸収できるものを貪欲に吸収して、僕の新たな一面をお見せしたいです」 エック、ノイマイヤー、ワシーリエフ、そしてベジャールの超大作『第九交響曲』に真っ向勝負を挑む、柄本弾。彼の快進撃を見届けたい。舞台を楽しんでいます!東京バレエ団『ドン・キホーテ』9/20(土)14:00 ゆうぽうとホール出演/上野水香 柄本弾 他※9/19(金)、9/21(日) 出演/エフゲーニャ・オブラスツォーワ デヴィッド・ホールバーグ 他モーリス・ベジャール振付『第九交響曲』11/8(土)19:00、11/9(日)14:00/18:00 NHKホール演奏/ズービン・メータ(指揮) イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 藤村実穂子(メゾソプラノ) 他出演/東京バレエ団 モーリス・ベジャール・バレエ団問NBSチケットセンター03-3791-8888 http://www.nbs.or.jp取材・文:上野房子 写真:藤本史昭217
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