eぶらあぼ 2014.7月号
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29《指環》のエッセンスをぎっしり凝縮文:飯尾洋一マーク・ウィグルスワース(指揮) 東京交響楽団第622回 定期演奏会7/5(土)18:00 サントリーホール第46回 川崎定期演奏会7/6(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONYチケットセンター044-520-1511http://tokyosymphony.jp怪傑マエストロとスーパー・トランペッターの共演インゴ・メッツマッハー(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団文:オヤマダアツシ特別演奏会 所沢公演7/12(土)14:00 所沢市民文化センターミューズアークホール#528定期演奏会 サントリーホール・シリーズ7/13(日)14:00 サントリーホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815http://www.njp.or.jpマーク・ウィグルスワース ©Ben Ealovegdインゴ・メッツマッハー ©Harald Homannホーカン・ハーデンベルガー ©Marco Borggreve ワーグナーの偉大な大作、楽劇《ニーベルングの指環》。これほど深い感銘を受ける作品もないが、一方でこれほど実演が大変なオペラもない。「ワーグナーのオペラを声楽抜きで聴きたい」というのは矛盾した欲求だが、なんとか作品のエッセンスだけでも普段のオーケストラ公演で味わうことができないものだろうかと考える人は少なくないはず。 そんなワーグナー・ファンの悩みを解決してくれるのが、オランダの作曲家であり打楽器奏者でもあるヘンク・ド・フリーハー編曲の楽劇「ニーベルングの指環-オーケストラル・アドベンチャー」だ。自らが首席打楽器奏者を務めるオランダ放送フィルの委嘱により、フリーハーは長大な楽劇を演奏時間約70分ほどの管弦楽曲に編曲した。聴きどころを集めた単なる抜粋とは違い、まるで一つの交響詩のようにまとめられたこの作品は、1992年の初演以後たびたび各地で演奏される人気作となっている。声楽が入らないので、オペラを聴かない人でも、純オーケストラ作品としてワーグナーを楽しむことができる。 7月の東京交響楽団公演では、この「オーケストラル・アドベンチャー」がマーク・ウィグルスワースの指揮によって演奏される。これまで客演で高い評価を獲得している実力者の指揮とあって、凝縮された音のドラマを期待できそうだ。 また、近年ますます充実した活動を展開する小菅優が、リストのピアノ協奏曲第2番で独奏を務める。こちらも大きな聴きものだ。 2010年11月に初めて新日本フィルの指揮台へ登場。チャイコフスキー、ショスタコーヴィチ、R.シュトラウスなど、どういった曲であっても常に既存のイメージや演奏を刷新。聴き手の期待を裏切らないマエストロ、それがインゴ・メッツマッハーだ。この怪傑マエストロが、新日本フィルの7月の演奏会に登場。ベートーヴェンの「エグモント」序曲と「英雄」交響曲という、文字通りのヒロイックな(そして裏側には深い悲劇が見え隠れする)2作品を聴かせてくれる。もう聴き慣れた名曲…なんて言ってはいけない。そこに強い光を当てて、未知の影を作り出すのがメッツマッハーなのだから。 さらにソリストとして登場するのは、吹けない曲がないと言われるスーパー・トランペッター、ホーカン・ハーデンベルガー。演奏するのは「誰も知らない私の悩み」という意味深なタイトルが付けられた、演奏時間が15分ほどのトランペット協奏曲だ。作曲者はメッツマッハーもオペラなどを指揮している、ベルント・アロイス・ツィンマーマン。つまり2人の理解者による決定的演奏であり、ドイツ現代音楽の軸となる作曲家を再評価するには格好のチャンスだろう。短い曲ながらも後半にはジャズ風のリズムが音楽を支配するなど、一筋縄ではいかない作品。ハーデンベルガー&メッツマッハーの絶妙な演奏だからこそ、真の音楽像が見えてくるかもしれない。

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