eぶらあぼ 2014.7月号
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25 都響は今、東京のオーケストラの中で最も勢いのある団体の一つだ。昨シーズンまで音楽監督を務めていたエリアフ・インバルによって鍛え抜かれた合奏力。そこから生まれた数々の名演はファンの心にも深く刻まれているはずだ。 彼らの活動の中核にいつもあったのは、マーラーの交響曲だ。いうまでもなくインバルはマーラー解釈の第一人者であり、都響もまた若杉弘、ガリー・ベルティーニといった前任者のもとでマーラー演奏の知見を積み重ねてきた。両者は 2012年より交響曲を番号順に取り上げる『新マーラー・ツィクルス』に取り組み、今年3月の第9番をもってこのプロジェクトは終了した。しかしマーラーには全体のプランをあらかた完成させながらも、その死によって途絶したもう一つの交響曲がある。この未完の第10番は、限られたスケッチに加筆する形でいくつかのヴァージョンが刊行されているが、その最初の試みとなったのがデリック・クック補筆版で都響スペシャル マーラー:交響曲第10番マーラーが語りかける最後のメッセージ文:江藤光紀7/20(日)・7/21(月・祝)14:00 サントリーホール問 都響ガイド03-3822-0727 http://www.tmso.or.jp楽オペラ劇 丹波明《白しらみね峯》世界初演(演奏会形式) フランス的語感で描く崇徳上皇のドラマ文:宮本 明セントラル愛知交響楽団 第136回 定期演奏会 9/26(金)18:30 三井住友海上しらかわホール問 セントラル愛知交響楽団052-581-3851第4回 東京公演 9/28(日)14:00 すみだトリフォニーホール問 コンサートイマジン03-3235-3777《白峯》公式ウェブサイト http://shiramine.net井﨑正浩丹波 明 ©Isabelle de Rouvilleある。実はインバルは若き日に、実際の演奏をもとにクックとディスカッションを重ねている。それは後に刊行された改訂版にも反映された。こうした経験は、今回の上演にも存分に発揮されるに違いない。 マーラーが9曲の交響曲で描いた世界が、人間の生から死への歩みであったとするなら、第10番は死の世界から現世への語りかけのようにも見える。それは補筆のプロセスのみならず、冥界をさまようような開始から聴き手を激しく揺さぶる強烈な不協和音まで、内容全体に及んでいる。黄泉の国の声を、現在望みうるベストのコンビがどう再現してくれるだろう。 長くフランスを本拠に活動する作曲家・丹波明(1932~)のオペラ《白峯》が、セントラル愛知交響楽団の定期演奏会と東京公演で初演される。 丹波は東京芸大卒業後、1960年に渡仏し、メシアンらに師事。能の音楽の研究でソルボンヌ大学から音楽博士号を授与されるなど音楽学の分野でも実績を残している。《白峯》は、江戸後期の作家・上田秋成の怪異小説『雨月物語』をベースに、作曲者自らが創意を加えて台本を書きおろした、全3幕12場の作品。2000年から8年近くかけて完成したという。 物語は平安末期、保元の乱(1156年)の一方の当事者である崇徳上皇を主人公に、鳥羽上皇や白河法皇、西行法師など、彼を取り巻く人々の対立、復讐などが描かれる。出演は崇徳の大野徹也(テノール)をはじめ、大塚博章、加賀清孝、中鉢聡、伊藤晴、飯田みち代他。セントラル愛知交響楽団(指揮・井﨑正浩)による演奏会形式での上演だ。エリアフ・インバル ©堀田力丸 作曲者の解説によれば、歌の旋律を4度音程の「細胞音型」(旋律を形作る最小単位のモチーフ)で統一、各幕を日本の伝統的美学原則である「序破急」で構成するなど、いくつかの音楽上のルールによって司られているようだ。メシアン門下らしく2台のオンド・マルトノを用いたり、電気的な反響も利用するなど、新鮮な音響に彩られた未体験のオペラが誕生する予感。

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