eぶらあぼ 2014.7月号
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232Kバレエ カンパニー 15周年記念公演『カルメン』「音楽・パッション・人間ドラマ」を描く新作!取材・文:新藤弘子 『ラ・バヤデール』『ロミオとジュリエット』と、2014年も矢継ぎ早に魅力的な公演を行うK バレエ カンパニー。そこでいま、バレエ・ファンの胸を騒がせる新しい作品が産声を上げようとしている。カンパニーの15周年記念公演、またTBSテレビ60周年特別企画として、今秋の世界初演に向けて着々と準備が進む『カルメン』。原作はプロスペル・メリメの有名小説、振付・演出はもちろん熊川哲也だ。 芸術監督としての熊川は、これまでに10作の全幕バレエを手掛け、そのすべてを成功に導くという驚くべき成果を収めている。春に初演された『ラ・バヤデール』も、古典の風格と独創的な解釈が絶妙のバランスで配合された舞台に、多くの観客が拍手を惜しまなかった。だが今回の『カルメン』は、発想の段階から過去の作品たちとは一線を画している。マリウス・プティパをはじめとする舞踊界の偉大な先人たちの作品をベースにした、いわゆる改訂版ではなく、オペラという別の芸術形態から着想を得てバレエ作品へと昇華させる、まったく新たな試みだからだ。ジョルジュ・ビゼーがオペラ《カルメン》のために作曲した音楽は、バレエの観客にもおなじみではあるが、本来バレエのために作られてはいない。その音楽をどのように再構成し、登場人物の踊りや情景を描き出し、ドラマを盛り上げてゆくのか。創り手である熊川の感性や哲学、振付の力が、そこでは最大限に発揮されることだろう。舞台美術と衣裳デザインには、世界最高峰のオペラハウスといわれるメトロポリタン・オペラで活躍するダニエル・オストリングとマーラ・ブルーメンフェルドを初めて起用。ビジュアル的にも、これまでの作品とはひと味ちがう仕上がりが期待される。 ダンサーとしての熊川の活躍を存分に観られそうなのも、ファンには嬉しい。『カルメン』といえば、情熱的なヒロインはもちろん、彼女に魅せられ堕ちていく竜騎兵伍長ホセ、その幼なじみのミケーラ、ホセの恋敵となる闘牛士エスカミーリョなど、個性的な登場人物が描き出す濃厚な人間模様が見どころだ。熊川が踊るホセは物語の中心でありながら、悩み、迷い、流される、ふつうの男。だからこそ、その演技の深みや複雑さを、観客は心ゆくまで堪能できるはず。そして、熊川と組んでカルメンを踊る女性ダンサーは2人。ジュリエット役での共演も記憶に新しいロベルタ・マルケスは、熊川との盤石のパートナーシップに加え、全身にみなぎる生命力と確かなテクニックで、カルメンの魅力を余すところなく表現してくれるだろう。いっぽうの白石あゆ美も、ガムザッティやオディールなど、情熱的な役でいきいきと輝くダンサー。この役でさらにステップアップするところをぜひ観たい。 ホセ役には熊川のほか、遅沢佑介、宮尾俊太郎、Kバレエスクール出身の福田昂平の名が並ぶ。この秋もまた、どの日を観るか、わくわくしつつ頭を悩ませることになりそうだ。 「すべてにおいて、瞬きひとつしてはいけない作品になると思います!」と熱く語る熊川。舞台美術・衣裳にも一切の妥協を許さないカンパニーの新作が楽しみである。10/9(木)~10/13(月・祝)、10/25(土)、10/26(日) Bunkamuraオーチャードホール問 チケットスペース 03-3234-9999 http://www.k-ballet.co.jp/company全国公演については上記ウェブサイトでご確認ください。左:ダニエル・オストリング(舞台美術デザイン)、右: 熊川哲也『カルメン』の舞台模型

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