eぶらあぼ 2014.6月号
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No.29 花の京都で桜肉一条戻り橋 二条の薬屋三条のみやす針 四条芝居五条の橋弁慶 六条の本願寺七条停車場 八条のおいも堀り九条羅生門に 東寺の塔京都わらべうた『一条戻り橋』 歌舞伎役者になりたかった。本当の話である。藝大入学以前に通っていた大学では教育学を専攻していたのだが、音楽科の授業も社会科のように、わらべうたなどの児童・生徒にとって身近な音楽から同心円的に学習が発展してゆく指導方法がないものか、と考え研究をしていた。そこでフィールドワークの一環と称して、当時の市川猿之助丈が主演していた『義経千本桜』を観に行ったのだが、あまりの素晴らしさにハートを鷲掴みにされ、以後、時間さえあれば歌舞伎座の幕見席に通うようになってしまった。そんな歌舞伎ファンの裏声歌手に、この春、夢のようなチャンスが訪れた。京都・南座で行われる市川海老蔵特別公演『源氏物語』の洋楽(!)監修&コーディネーターを務めることになったのである。今回の『源氏物語』は能楽と歌舞伎、そしてオペラのコラボレーションを看板にしていたため、お声掛けを頂いた次第だ。こちらとしてはやる気満々。なにしろ歌舞伎の舞台を一緒に創れるのだから、気合いを入れずにいられようか。公演は初日から完売、千秋楽も満員御礼でめでたく幕を下ろした。 さて、そんなわけで満開の桜が葉桜となるまで京都に通ったため、京の美味もたっぷりと味わった。以下、心に残った食を記す;南座入り口向かって右側にある祇園饅頭。創業文政年間のこの店では、花見団子、六方焼き、道明寺の桜餅などなどを買い求めたが、とにかく餡が気に入った。和菓子の小豆餡には時々、喉が焼けるのではないかと思うほど砂糖が前面に出て主張するものがあるが、こちらの餡はほどよく舌に融け、その上しっかりと甘味の満足感を与えてくれる。特筆すべきは味噌味のかしわ餅で、ぱくっとかぶりつくと味噌の風味と塩味、甘味が一体となった餡が溢れ出す。花盛りの都で桜肉を食らおうと洒落て入った馬肉専門店では、「春の訪れを祝う桜はんなり御膳」と称したランチを頂く。豆乳で仕立てた桜肉と京湯葉のしゃぶしゃぶ小鍋、紅白鮮馬刺し(白はたてがみの辺りのコラーゲンだそうな)、桜の華やぎ小鉢、桜そぼろご飯、香の物を次々と舌で愛でた。京都のB級グルメ決定版は壹銭洋食。小麦粉、ネギ、卵、牛スジの煮込み、ショウガ、エビ、天かす、ちくわ、こんにゃく、などを混ぜ合わせ焼き上げたもの。言わばお好み焼きのようなものだが、辛めのソースをたっぷりと塗った上にこんもりと刻み海苔がトッピングされている。かなり味が濃いので自然とビールなんぞを所望したくなるが、仕事で来ている以上ここはぐっと我慢。他にも、にしんそばの松葉、南座から鴨川を挟んだお向かいにある中華の名店、東華菜館にも足を運んだ。えび様との次回共演に向けてがっつり食べて楽器=身体のメンテナンスをしておかなくちゃ。千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。191

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