eぶらあぼ 2014.6月号
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この人いちおし176【CD】『チェンバロおもちゃ箱』水永牧子(チェンバロ)日本アコースティックレコーズNARD-5045 ¥3000+税5月21日(水)発売【Concert】水永牧子チェンバロリサイタル★8月25日(月)・東京オペラシティリサイタルホール問:イマジンチケットセンター03-3235-3777水永牧子(チェンバロ)Makiko Mizunaga親子で楽しめるアルバムを作ることが、今回の一番重要なテーマです バロックから現代、ソロからアンサンブルまで、従来のチェンバリストの枠にとどまらない多彩な活躍を続けている水永牧子。5月21日にリリースする『チェンバロおもちゃ箱』は、ソロとしては3年ぶりとなる待望の新譜だ。収録作品には、彼女のこれまでの活動とは異なる視点で選ばれた19曲が並ぶ。 「チェンバロのレパートリーはバロック時代の、どちらかと言えば大半は大人のための“本格的”な音楽が中心ですが、今回は、子供やチェンバロになじみのない方も広く楽しめるような、聴きやすい名曲を集めました」 そこには現在2歳の息子の母親でもある彼女の環境が大きく影響しているという。 「息子には私の仕事を難解だと思って欲しくないので、毎日必ず一緒にチェンバロを弾く時間を作るようにしています。収録曲の一つ、モーツァルト『きらきら星変奏曲』は、彼も大好きな作品ですね。遊びや音楽を通じて、子供のピュアで想像力豊かな感性に触れるたび、『私もそんな気持ちで音楽に向き合いたい』という思いを新たにすることができます。そして、子供にも柔らかな心を持った状態で、普段からチェンバロ音楽を聴かせてあげたい。そんな親子で楽しめるアルバムを作ることが、今回の一番重要なテーマです。ただ、ソレール『ファンダンゴ』だけは例外。私がずっと録音したかった、情熱的で長大な“大人のための”音楽です(笑)」 「“聴きやすい”の基準は、長調やリズミカルといった要素」と語る水永。前者の例はマイヤース(J.ウィリアムス編)の名曲「カヴァティーナ」、後者の例ではカタルーニャの作曲家&ギタリスト、リョベートのギター曲「糸を紡ぐ娘」と「聖母の御子」のチェンバロ版だ。 「本来はバロックやチェンバロのレパートリーではないのですが、ギターの爪弾く感じがチェンバロの典雅な響きと相性がいいと思って挑戦してみました。ギターは広い音域を同時に掻き鳴らせますが、チェンバロは指を思い切り広げなくてはいけません。また、音域を原曲よりも1オクターヴ下げて聴きやすくするなど、色々と工夫を施しました」 そして全19曲中7曲を占めるのがJ.S.バッハの作品。水永は、チェンバロ協奏曲第5番のアダージョや、管弦楽組曲第2番のバディネリ、「G線上のアリア」など、計5曲で編曲の腕も披露している。 「昔から編曲作業で一貫して心がけてきたことがあります。それはリズムや調性を大幅に変更せず、原曲の美しさを最大限に引き出すことです。今回はチェンバロ1台ではすべてのパートをカバーできない管弦楽曲の編曲が特に大変で、パートの取捨選択に心底悩みました。『G線上のアリア』はすべてのパートが演奏に不可欠なので多重録音しました」 8月には当盤の発売記念リサイタルを東京オペラシティリサイタルホールで開催する。アルバムの収録作品だけでなく、バッハ・コレギウム・ジャパンやソフィオ・アルモニコなどで活躍するバロック・フルート奏者、前田りり子との待望の初共演も実現する。演目には、J.S.バッハの「バディネリ」やフルートと通奏低音のためのソナタ(BWV.1033)などを予定。また、演奏活動以外では、都内でチェンバロ&オルガンを教えている。K.ヒル作のチェンバロ、辻宏作のポジティフオルガンという2つの名器でレッスンを行うというから、こちらもご興味のある方は是非。取材・文:渡辺謙太郎©西田 航
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