eぶらあぼ 2014.5月号
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44★5月6日(火・休)・紀尾井ホール ●発売中問 テンポプリモ03-5810-7772 http://tempoprimo.co.jp 今年で92歳を迎えるイヴリー・ギトリスの存在は、もはや“音楽史の一部”と言い切ってしまってもいいだろう。未曽有の被害をもたらした東日本大震災の発生以来、海外アーティストのキャンセルが続く中、「私は、行かなければ」と直後から何度も来日を重ね、生きる勇気と喜びを与えてくれた現役最高齢のヴァイオリンの巨匠。そのステージは「音楽にとって、本当に必要なものは何か」を教えてくれる。 5歳でヴァイオリンを始め、7歳で早くもステージ・デビュー。名匠ブロニスラフ・フーベルマンに見出されて渡仏し、ジョルジュ・エネスコ、ジャック・ティボー、カール・フレッシュら伝説の名手たちの薫陶を受けたギトリス。優勝を逃した1951年のロン=ティボー国際コンクールでは、これを不服とした聴衆が騒ぎ出し、急きょリサイタルが企画されたとの逸話も。昨年には一年遅れながら、90歳を祝うステージを日本で開き、その人柄が滲む円熟の演奏を現役最高齢の巨匠が紡ぐ温かな音イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)聴かせた。 今回の来日リサイタルも、気心の知れたヴァハン・マルディロシアンと共演。孫のような世代ながら、ギトリスが「最高のパートナー」と認め、指揮者としても幅広く活躍するピアノの俊英だ。個々で披露されるのは、ベートーヴェンのソナタ第5番「春」を核として、クライスラー「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」やマスネ「タイスの瞑想曲」、パラディス「シシリエンヌ」など小品を配した、親しみやすいプログラム。巨匠のヴァイオリンは、温かな音色で語りかけてくる。文:笹田和人 ラザレフ&日本フィルの定期演奏会は、いま最も聴き逃せないコンサートの一つだ。当コンビの充実ぶりは、もはや周知の事実だが、今年3月定期のスクリャービンのピアノ協奏曲とショスタコーヴィチの「レニングラード」交響曲はもう圧巻の一語。激烈なダイナミズムやMAXの燃焼度と、精緻な表情付けや精妙なバランスを共生させたラザレフの凄み、クリアにして圧倒的エネルギーを放つ音楽に、心底感嘆させられた。 5月定期も、そうした特質が最大限に生きる、心憎いプログラムが組まれている。まずはスクリャービン特集の最終回として、交響曲第5番「プロメテウス」が登場。同曲は、巨大編成の上に独奏ピアノ、オルガン、歌詞のない混声合唱(晋友会合唱団)を要するだけあって、演奏される機会は多くない。有名な「法悦の詩」ではなく、あえて第5番を取り上げた勇断――しかもピアノには日本屈指のヴィルトゥ猛々しくも繊細な将軍、怪作&快作に挑むアレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団オーゾ・若林顕が起用される――を讃えたいし、むろん演奏も期待大。いわゆる神秘主義のもと、色彩までも音楽に取り込もうとした意欲作が明快かつ壮絶に鳴り響く、稀有の瞬間を体験できるだろう。他の演目も妙味十分。リストの変化に富んだ交響詩「プロメテウス」は、さらに生演奏が稀少であり、同題材作品の比較もまた興味深い。そしてラヴェルの鮮烈な名作「ダフニスとクロエ」第1、第2組曲。これはスクリャービン作品とまったく同時期に書かれ、和声など相通じる面があり、歌詞のない混声合唱も用いられる。かくしてお互い関連性をもち、全てに緻密さと爆発力の共生がモノを言う当公演。もちろん必聴だ。文:柴田克彦第660回東京定期演奏会 ★5月30日(金)、31日(土)・サントリーホール ●発売中問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jpアレクサンドル・ラザレフⒸ山口 敦若林 顕ⒸWataru NISHIDA
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