eぶらあぼ 2014.5月号
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この人いちおし154【CD】『漆原啓子&漆原朝子 無伴奏ヴァイオリン・デュオ』◎シュポア:2つのヴァイオリンのための二重奏曲 ト短調 Op.67-3 ◎ルクレール:2つのヴァイオリンのためのソナタ Op.3-2 ◎ミヨー:2つのヴァイオリンのための二重奏曲 ◎武満徹:揺れる鏡の夜明け ◎プロコフィエフ:2つのヴァイオリンのためのソナタ ハ長調 Op.56 ◎ヴィエニャフスキ:エチュード・カプリース 0p.18より第2番アンダンテ日本アコースティック・レコーズNARD-5046 ¥3000+税漆原啓子&漆原朝子(ヴァイオリン)Keiko Urushihara & Asako Urushihara異なる個性の融合が引き出す“無伴奏ヴァイオリン・デュオ”の魅力 それぞれヴァイオリニストとして第一線で活躍を続け、オーケストラや室内楽奏者、指揮者などからの信頼も厚い、漆原啓子とその妹である漆原朝子が待望のデュオ・アルバムをリリース。無伴奏ヴァイオリン・デュオは決してポピュラーなジャンルではないが、今回のアルバムでは師弟間でのレッスンやリサイタル用など、様々な目的で書かれた珠玉の作品が時代を超えて集められている。 啓子(以下K)「無伴奏ヴァイオリン1台でも、ピアノの束縛なしに自由に世界を作れるので、2台になった分それがゴージャスに拡大する感じがいいですね(笑)。このジャンルに作品の多いシュポアなどはこれまで弾く機会も多かったですが、ミヨーの作品は初めてだったので、短い中にもミヨーらしさが出せるようにじっくり時間をかけて取り組みました」 朝子(以下A)「それぞれ持ち味が違うので難しさもいろいろ。特にプロコフィエフの作品は16分音符一つでずれていく“危うい世界”なので縦の線が崩壊しないように合わせているため、高い緊張感に満ちた曲となっています。加えてバレエ音楽も得意とした作曲家らしいパッセージがあります。バレエといえば、ルクレールの作品も舞踏の雰囲気を持っていますね。そのような作品は姉が得意なので、彼女からその“踊り”のセンスを学びました」 輝くような音色で鮮やかな演奏を繰り広げる姉(啓子)のストラドと、落ち着きのある音と力強い輪郭に定評のある妹(朝子)のグァルネリが見事に調和。 K「どちらか一方が主役というわけではないのです。ファースト・ヴァイオリンとセカンド・ヴァイオリンは、いつも交互にメロディが出てきますが、むしろ伴奏系を素敵に弾くほうが難しいと思います」 武満徹が大岡信の詩集(詩人トマス・フィッツシモンズとのコラボ)から4編を選んで書き上げた「揺れる鏡の夜明け」も本アルバムの聴き所のひとつ。 A「詩から受けたインスピレーションが豊かな色彩となって落ち着いた佇まいを見せている反面、楽譜には細かい指示がびっちりと書き込まれていて、そのギャップにとても表面的に語り尽くせない奥深さを感じます」 K「2人で一緒に何度も演奏した作品ですが、ライヴの時の、ほわっと霧に包まれたような雰囲気を出すのが難しかった…。CDだとどうしてもクリアになってしまいがちで。でも以前、NHKの番組でこの曲を奈良の古いお寺の渡り廊下で演奏した時の、何とも日本的でしっくりときた印象が2人の中に残っていたので、その感覚を思い出しながらレコーディングに臨みました」 最後を飾るヴィエニャフスキの作品はほっこりと和む穏やかな作品だが、ここまで編曲ものは一切ない孤高のアルバム。それだけに2人のヴァイオリニストの個性や音色の違い、他のペアには真似できない絶妙な融合によって、馴染みのない楽曲からも新たな魅力が紡ぎ出されている。 K「明らかに違う音なのに、どこかで血の繋がりを感じさせたりもするのがやっぱり面白いですよね」 A「子どもの頃は3歳上の姉のレッスンについていって、演奏を耳で聴いて覚えてしまって、基礎をとばして弾こうとするような妹でした(笑)。以前、姉のアルバムでピアノを交えてモシュコフスキの曲を演奏したことはありましたが、2人で1枚のアルバムを作り上げるのは今回が初めてだったので嬉しかった。自分だけだとどうしても内に向かいがちだった所が、姉に外側に向けてもらえたような気がします」 K「これからもお互いに影響し合って一緒に成長できたらいいですね」取材・文:東端哲也左:漆原朝子 右:漆原啓子

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