eぶらあぼ 2014.3月号
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36 当代最高のチェリストの一人、ピーター・ウィスペルウェイ。2008年以来、彼が“弦の名門”トッパンホールで演奏するのはこれで4回目だというから、その親密ぶりに改めて驚かされる。過去3回は、以前は日本であまり知られていなかった彼の得意分野=現代音楽が中心だったが、今回は違う。本人たっての希望で、「自分は現代音楽以外の曲をこんな風に弾く」に焦点があたるのだ。その根幹が、シューベルトの晩年の傑作、ヴァイオリンとピアノのための幻想曲をウィスペルウェイ自身が編曲したもの。演奏の難易度が極めて高いことでも有名なこの作品をチェロに置き換えるとどうなるのか。名手ならではの歌心ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)×パオロ・ジャコメッティ(ピアノ)作品の価値を新たな視点から高めてくれることを期待したい。そしてこの大樹を美しく取り巻くのが、ブラームス、プーランク、ドビュッシーの3曲。呪術的とも言えるウィスペルウェイ独特の歌心を、盟友パオロ・ジャコメッティの緻密で軽やかなピアノと共にたっぷり満喫しよう!文:渡辺謙太郎★3月14日(金)・トッパンホール ●発売中問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com他公演 3/12(水)・紀尾井ホール(ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040)ピーター・ウィスペルウェイパオロ・ジャコメッティ共演:西本智実(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団★3月30日(日)・東京芸術劇場●発売中問 日本フィル・サービスセンター 03-5378-5911 日本映画の不朽の名作『砂の器』が、今年で公開40周年を迎える。映画のクライマックスで登場人物が弾き振りをするピアノ協奏曲「宿命」が、この春コンサートホールで蘇る。独奏を務めるのは外山啓介。その繊細で切れ味の鋭い音色が、映画の主人公「和賀英良」の悲劇的な運命を辿る。 「名画の重要なシーンで登場した素晴らしい音楽を演奏させていただけることに、大きな魅力を感じています。クラシック音楽の場合、作品が書かれてから長い年月が経っていることが多く、作曲者がその音楽を書くきっかけとなった直接的な題材に触れることは容易ではありません。しかし『宿命』という作品は、映画=物語に密着する形で書かれた作品なので、楽曲のイメージを大いに膨らませることができます。それをどう音にできるかが、僕にとっての挑戦ですね」と外山は語る。 松本清張の小説『砂の器』は、ハンセン病を患う父とその息子の絆を描き、差別・非差別という社会問題を世に問うた衝撃作である。1974年に松竹で制作され大ヒットした映画では、ラスト40分ほどを占める大曲「宿命」(菅野光亮作曲)が話題となった。今回、西本智実の指揮、日本フィルハーモニー交響楽団と外山が共演するのは、のちに二部構成にまとめられた組曲版である。そのロマンティシズムあふれる響きは、外山が得意とするラフマニノフの協奏曲の響きを彷彿とさせる。 「情熱的で重厚なハーモニー、そして叙情的で美しいメロディが特徴的です。映画のストーリーと一体となって進む構成だけに、登場人物の感情の起伏を強く伝えます。演奏者として一番魅力的だと感じる部分は、美しく、そして時に劇的に現れる転調ですね。この音楽をより感動的にしているポイントです。今回で4度目の共演となる西本さんは、いつも美と重厚さに溢れた音楽を生み出してくださいます。『宿命』での共演も楽しみです」 コンサートの前半には、ラフマニノフの「鐘」や「ヴォカリーズ」を含むピアノ・ソロ3曲も披露する。 「皆さんがよくご存知の名曲です。たっぷりとした和声や、叙情的なメロディの掛け合わせなど、ラフマニノフならではの魅力もお楽しみいただけると思います。演奏会のプログラムはよく料理のコースに例えられますが、僕はひとつの物語であると考えています」 中盤には映画の音楽監督を務めた芥川也寸志の「弦楽のための三楽章」も取り上げられる。『砂の器』という物語が訴えかけた社会的テーマにも再び想いを馳せたい。取材・文:飯田有抄映画に密着した曲のイメージを音にする挑戦外山啓介(ピアノ) billboard Classics 組曲「宿命」〜映画『砂の器』公開40周年記念インタビューマークのある公演は、「eぶらあぼ」からチケット購入できます(一部購入できない公演、チケット券種がございます)ⒸYuji Hori
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