eぶらあぼ 2014.3月号
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21世界の主要歌劇場の一つとして高いクオリティの舞台を実現させたい 1月17日の記者会見で、新国立劇場オペラ2014/ 2015シーズンについて熱弁を振るったマエストロ、飯守泰次郎。次期オペラ芸術監督として「オペラが人間に与える豊かさを日本の文化の中で活かしてゆきたい」と語るその声音には、強い意欲と責任感が漲っている。「10月の開幕公演にはワーグナーの《パルジファル》を上演します。任期の初の演目ですので、指揮する私の個性が出せて、客席の皆様の芸術的な期待にも応えられる名作として選びました。また、新国立劇場がこれまでワーグナーのオペラをほぼすべて取り上げてきた中で、《パルジファル》だけが残っていましたから、この機に取り上げるべきだろうとも思ったのです。ワーグナーはドイツ人独特の、理屈っぽく押し付けがましいところがありますね。でも、彼の音楽の内面的で柔軟な響きは、聴き手の心の深くまで浸透してゆきます。同じワーグナーでも〈ワルキューレの騎行〉のように分かり易く明快に印象付けるメロディもありますが、《パルジファル》の音作りは、我々を自然に包み込み、心で自由に解釈させてくれるものなのです」 ここで、バイロイト音楽祭に長くかかわったマエストロならではの視点を。「《パルジファル》に脈打つ東洋的な哲学と宗教性について語るとき、西洋の人々はみな自分のこだわりを強く打ち出し、妥協しません。来期は松村禎三さんの《沈黙》をオペラパレスで再演しますが、遠藤周作の原作に対する欧州の評価は、カトリックの教義を論ずる人々の中ではかなり割れていますね。そういうところを西洋人は非常に厳しく捉え、曖昧にはしないのです。でも《沈黙》は日本が世界に誇れる普遍性を持っていると思います。日本人は宗教にはとても寛大です。だから、演出家もむしろ、東京で取り組む方が《パルジファル》をより自由に解釈できるようですね。思うに、《パルジファル》はワーグナーが最もアジアに近づいた作品であるのかもしれません。ハリー・クプファーさんの演出を私も楽しみにしています」 そして、スタンダードなレパートリー作りも念頭において。「ドイツとイタリアの人気作を中心に、10演目をバランスよく選ぼうと心がけました。大震災で延期になった《マノン・レスコー》(プッチーニ)が今回ようやく上演できますし、ヴェルディの3作では再演の《ドン・カルロ》《運命の力》に加えて、《椿姫》が新制作となります。駆け出しの頃、私は《椿姫》を連続で51回も振ったことがあるのです。だから自分でも言いますよ『才能なんか要らない。51回も振れば出来るようになる!』と(笑)。でも、こういった実演の積み重ねが演奏家には本当に重要ですね…。バイロイトで仕事の合間にカール・ベームさんとお茶を飲む機会がありました。その時、マエストロがいきなり私の目を見ておっしゃいました『イイモリさん、貴方は《さまよえるオランダ人》の稽古ピアノを実によくこなしている。でも、モーツァルトはちゃんと弾けますか? 振れますか? 指揮者として歩むなら、この先それも大事なのですよ』。私が今でも心から大切にしているアドバイスです。歌劇場でも、古典派もロマン派も幅広く取り揃えるべきですね。来期はモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》、オペレッタの《こうもり》に加えて、後期ロマン派を代表するR.シュトラウスの《ばらの騎士》も取り上げます。このラインナップなら皆さまにも幅広く親しんでいただけることでしょう」 最後に、かつて「時代の変化」を目の当たりにしたマエストロが、その記憶を踏まえてオペラ界への想いを新たに。「バイロイトで音楽助手として働き始めた頃、シュタインさんやヨッフムさんがドイツの伝統の上に立って振っていました。楽譜には代々の指揮者の書き込みがあり、オーケストラもそれを尊重していました。しかし、ある日、指揮者のブーレーズと演出家のシェローがやってきてスキャンダル的な上演を行い、その状況をぶち壊したのです。それは『創造のための破壊』でした。率直なところ、私も当初は抵抗を覚えましたが、彼らは何年も自分の流儀を貫き、ついに周囲に認めさせたのです。面白いもので、改革とは急進的にやらないとなかなか進まないのですね…。新国立はまだ16年目の若い劇場ですが、それだけに、若々しくやる気に燃える人材が集まっています。監督としては芸術的内容を高めることが第一の責務であり、素晴らしいアーティストたちと共に、毎回、最上のステージを作り上げたいと願っています」取材・文:岸 純信(オペラ研究家) 写真:藤本史昭

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