eぶらあぼ 2014.3月号
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ぴっくあっぷ172 「近頃、モダン・ピアノで弾く魅力的なバッハ演奏になかなかお耳にかかれない」とお嘆きの貴兄に、この格調高い演奏をお届けしたい。1996年にライプツィヒのバッハ国際コンクールで最高位入賞を果たしたヘルマンによる、昨年リリースの第一弾に続くフランス組曲の完結編。収録は1枚目と同時に行われたため、全体的には同じトーンで貫かれている。流れゆく水のごとき、彼女の自然な音楽創りは、相変わらず。バロック作品に対する最低限のマナーは踏まえつつ、バス旋律のタッチを1音ごとに変化させて動きを持たせるなど、モダン楽器ならではの表現法を突き詰めている。(寺西 肇)J.S.バッハ:フランス組曲 第2集/コルネリア・ヘルマンJ.S.バッハ:◎フランス組曲第3番 ◎同第4番 ◎パルティータ ロ短調(フランス風序曲)コルネリア・ヘルマン(ピアノ) 伊福部昭がノイエ・タンツの江口隆哉と組んだ舞踊音楽「プロメテの火」(1950)は、初演直後モダン・ダンスの傑作として高い評価を得たが、長らくスコアが行方不明になっていた。これは、続く江口との共作「日本の太鼓“鹿踊り(ししおどり)”」とともに行われた蘇演の記録だ。初演も同じ東響(当時は東宝交響楽団)だが、実にうまくなったものだ。息の乱れがなく、全篇を軽やかな推進力をもって進め、すっきりとした造形感でまとめている。見事すぎて、かえって少々アクがほしくなるほど。舞踏の内容などについては、片山杜秀氏によるライナーノートで詳しく紹介されている。(江藤光紀)伊福部昭:プロメテの火/広上淳一&東響伊福部昭:◎舞踊音楽「プロメテの火」 ◎舞踊音楽「日本の太鼓“鹿踊り”」広上淳一(指揮)東京交響楽団 日本の大家とウィーン・フィル首席奏者の共演。昨年9月の東京公演を全曲収録したライヴ録音である。珍しいJ.C.F.バッハ作品の冒頭から玲瓏な音と愉悦感に溢れた演奏が耳を奪う。以下、流麗・典雅なバロックもの、シャープな現代曲、技巧的なオペラのパラフレーズなど多彩な音楽が登場。ランパルの弟子・工藤の華麗な音色、ニコレの薫陶を受けたアウアーの柔和な音色が師匠譲りの個性を放ちつつ、親密にしてスリリングな競演が繰り広げられる。ここまでくると、名技のレベルを超えて音楽的な充足感満点。フルート・デュオの魅力に開眼させられる思いだ。(柴田克彦)大協奏幻想曲〜フルート・デュオ作品集/工藤重典&ワルター・アウアー◎J.C.F.バッハ:2本のフルートのためのソナタ ◎J.S.バッハ:トリオ・ソナタBWV1029 ◎ドップラー:夢遊病の女〜アデリーナ・パッティの思い出によるパラフレーズ ◎ユーグ:ヴェルディ「仮面舞踏会」の主題による大協奏幻想曲 他工藤重典(フルート)ワルター・アウアー(フルート)成田有花(ピアノ&チェンバロ) これまたレアな音源が発掘されたものだ。リヒテル1984年3月来日時、東京・文京区の由緒ある茶室、蕉雨園で行なわれた非公開ライヴ(この辺の経緯についてはブックレットに詳しい)。思いのほか良い音で録られているのにまずは感心。わずか100人の聴衆の前であろうと、リヒテルが通常コンサート並に―あるいはそれ以上に―真剣に弾いているのがひしひしと伝わる。明確なタッチでくっきりと隈取りされた、生命感溢れるハイドンのソナタ、遅めのテンポでどっしりと弾き進む、まるで肉汁の滴るような異色の、そして実に素晴らしいドビュッシー。良いです。(藤原 聡)リヒテル 幻の東京リサイタル 1984年3月27日ハイドン:◎ピアノ・ソナタ第24番 ◎同第32番 ドビュッシー:◎前奏曲集第1巻より10曲 ◎映像第1集より「水の反映」スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)収録:2012年6月、名古屋、電気文化会館ザ・コンサートホールカメラータ・トウキョウ CMCD-25040 ¥2500+税収録:2013年5,6月、ミューザ川崎シンフォニーホール(ライヴ)日本コロムビア COCQ-85045 ¥2800+税収録:2013年9月、浜離宮朝日ホール(ライヴ)マイスター・ミュージックMM-2172 ¥2816+税収録:1984年3月、東京、蕉雨園(ライヴ)キングインターナショナルKKC-2083 ¥オープンCDCDCDCD
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