eぶらあぼ 2014.1月号
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35藤原歌劇団創立80周年記念公演 ロッシーニ 《オリィ伯爵》★2014年1月31日(金)、2月2日(日)・東京文化会館 ●発売中問 日本オペラ振興会チケットセンター044-959-5067 http://www.jof.or.jp 21世紀を代表する「ロッシーニ歌い」アントニーノ・シラグーザ。彼の超高音域まで楽々と響かせる美声と、卓抜した喉の技にしびれるオペラファンは多い。 筆者にも、2009年パリでの《セビリャの理髪師》で、彼の超絶名演に圧倒された思い出がある。このとき、伯爵役として大詰めの名アリアを歌うべく、ステージに出てきたシラグーザに観客の全員が目を剥いた。というのも、彼は突如サッカーのユニフォームに着替えて現われ、同じくユニフォーム姿の男声合唱を相手に、ボールをパスしながらあの難曲を歌い上げていったからである(前日のサッカーの名試合に発奮したとのこと)。 男声コロラトゥーラの極致たるこの曲で、シラグーザは、ボールも喉もやすやすと操り続けていった。声と動作のマッチングであれほどスリリングなものは観たことがない。客席の大歓声に誇らしげに応えるシラグーザは、満面の笑みを見せていた。 このように、持ち前の技量とセンスで「観客を大いに愉しませよう!」と燃えるのがこのテノールの本領である。1月に主演の《オリィ伯爵》でも、彼の情熱は存分に発揮されるに違いない。ロッシーニがフランス語の台本に作曲した本作は、完全なコメディタッチのもの。旧作《ランスへの旅》の音楽をかなり転用しているので、聴き覚えのあるメロディもふんだんに出てくる人気オペラである。 物語は十字軍の時代。男性不在の城を預かる女主人アデルと、その美貌に心奪われ、行者に変装してまで彼女に近づく不良貴族オリィ。オペラではこの二人の駆け引きが中心になり、オリィ率いる一団が尼僧姿で城に入り込むという、リアリズムからは遠く離れた「笑劇の世界」が展開する。いかにも、シラグーザの演技魂に火がつきそうな一作である。 アデル役で出演予定の光岡暁恵によると、シラグーザ本人もこのオペラに並々ならぬ情熱を寄せているという。「別の仕事場でお目にかかった際に『《オリィ》では宜しく願いします』とご挨拶したら、『フランス語大丈夫? 僕もこれからもっと勉強だよ』と言われました。あのシラグーザさんでも困り顔をされるんだと思うと、却って勇気づけられました(笑)。本番が大好き、サービス精神が旺盛で、お客様を喜ばせようと励む方なんです」とのこと。 イタリア仕込みの流麗なメロディから、軽やかなフランス語がシャンパンの気泡のように浮かび上がってくる《オリィ伯爵》。シラグーザなら、大人のコメディの極意を堪能させてくれるだろう。文:岸 純信(オペラ研究家)シラグーザで聴く大人のコメディの極意藤原歌劇団創立80周年記念公演《オリィ伯爵》 既成概念を覆す時が来た! と言えばいささか大げさか。室内楽、中でもデュオの際のピアノは、単なる伴奏にあらず、時にソロ以上の音楽性を要する。トッパンホールのシリーズ<室内楽マイスターへの道>は、その力をもった若手ピアニストに、名匠との共演の場を提供し、奏者の飛躍と室内楽シーンの活性化を図る好企画。その第2回は、30歳の俊英実力派・佐藤卓史が、ヴィオラの巨人ヴォルフラム・クリストと共演する。佐藤は、ソロ、協奏曲やCD等で実績を重ね、ハノーファーとウィーンで研鑽を積んで2013年帰国。カラヤン、アバド時代のベルリン・フィルで首席奏者を務め二重奏に新たな伝説が生まれるヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ/ヴィオラ・ダモーレ)×佐藤卓史(ピアノ/フォルテピアノ) た後、多方面で活躍するクリストとは、好タイミングでの邂逅となる。前半がヴィオラ・ダモーレ&フォルテピアノ、後半はヴィオラ&ピアノに分かれたプログラムも興味津々。前半は生演奏が貴重な古楽作品、後半はロマン派以降の王道プロが続き、2人の多様な表現力が示される。温かな音色と繊細な感性をもつ佐藤が、圧倒的パワーと雄弁な音楽で迫るクリストといかなる対話を交わすか? 要注目!文:柴田克彦<室内楽マイスターへの道 2>★2014年1月25日(土)・トッパンホール ●発売中問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222http://www.toppanhall.comヴォルフラム・クリスト佐藤卓史アントニーノ・シラグーザ
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