eぶらあぼ 2014.1月号
172/181
No.24 プノンペンで朝食を女:バッタンバンには塩辛い魚のポオッ(魚の麹 漬けの一種)があります。男:ああ、青いタマリンド(と一緒に食べたら)素 晴らしくおいしいですよね。どこで売っている のでしょうか。女:ああ、スナン村にあります。男:それでは一緒に行きましょうか。女:見てください、ドリアンの実が。男:ああ、本当にいい匂い、おいしそうですね。女:それに、ランブータンの実は、ハチミツみたい に甘いんです。男:パイリンとバッタンバンを旅するのは、なんて 楽しいのだろう ! 私はもうプノンペンに戻りたくなくなったよ !作者不詳<バッタンバン地方は何がおいしいですか?>より 筆者はルネサンス・バロック音楽を主なレパートリーとしているためか、海外公演と言えばどうしてもヨーロッパが主となりがちである。しかし先日初めてアジアでの公演機会を得たので、さっそくご報告したい。 2013年は日本カンボジア友好60周年であったため、在カンボジア日本国大使館招聘という形で同国においていくつかの公演を行った。ソプラノの小川里美氏が以前カンボジアでコンサートを行った際のご縁から今回の公演へと発展したのだが、現地で音楽教育に携わっている池田尚子氏に多大なるご尽力を頂いた。プノンペンでの演奏会は、各国大使、大臣、そして王族の方々もご臨席され大いに盛り上がった。 さてカンボジアごはんであるが、第一印象は「近隣諸国のハイブリッド料理」。フォーのような米麺も多種あり、具材を選べるのがなかなか楽しい。スープは澄んだコンソメ風で、トゥック・トレイという魚醤や唐辛子などを好みに合わせて投入して調味する。ヴェトナムのバインセオにそっくりなバンチャエウという料理もあった。豚肉ともやしなどの野菜を米粉とココナッツミルクをベースにした薄皮生地と一緒に食すものだ。旅公演中は100パーセント外食であるゆえに、こうして野菜をたっぷりと食べられるのはたいへん有難い。メコン川の豊かな恵みも食卓を飾る。香草を効かせた川魚の蒸し料理はさっぱりとした味で好印象。大きく開けた口に差し込んであるのはレモングラス。魚醤ベースのソースを慎重に垂らしながら食すと口中に塩味、うま味などが入り混じった複雑な味が広がる。魚は頭の形からするとライギョの仲間だろうか?魚の身とココナッツミルク、カレーペーストをバナナの葉に包み蒸したアモックは今回口にした現地料理の中でもかなりのお気に入りとなった。ココナッツミルクが加わると一気に南国の食べ物らしくなるが、それ以外にも様々な香辛料や香草、そして魚醤が一緒になって作り出す多重構造的味わいこそ、アジアごはんの真髄なのだという思いを新たにした。 演奏者としての責任を負っている以上、体調管理も仕事のうちである。それゆえ旅先では慎重にならざるを得ないが、立ち寄ったマーケットの雑然とした食堂で現地の人々が食べていたサラダ麺と道端で売っていたバナナの葉に包まれた謎の料理がなんとも美味しそうであった…。またカンボジアへ伺うことがあればぜひ挑戦してみたい。千葉大学卒業。同学大学院修了。東京芸術大学声楽科卒業。1999年よりイタリア国内外劇場でのオペラ、演奏会に出演。放送大学、学習院生涯学習センター講師。在日本フェッラーラ・ルネサンス文化大使。バル・ダンツァ文化協会創設会員。日本演奏連盟、二期会会員。「まいにちイタリア語」(NHK出版)、「教育音楽」(音楽之友社)に連載中。著作「イタリア貴族養成講座」(集英社)、CD「イタリア古典歌曲」(キングインターナショナル)「シレーヌたちのハーモニー」(Tactus)平成24年度(第63回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。177
元のページ