eぶらあぼ 2013.12月号
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189 繰り出される一粒一粒の音と、それらの間合いのすべてに命が宿ったモーツァルトの演奏である。3曲のソナタと2曲のロンドを通じて、小倉貴久子はその天真爛漫でチャーミングな響き(KV311、KV485)、激情的な悲哀と柔らかな陰り(KV310、KV511)、スリリングで華やかな即興性(KV331)を存分に効かせ、モーツァルトの世界にぐいぐいと引き込んでくれる。録音に使用されたのは、モーツァルトも愛したヴァルター製フォルテピアノ(1795年製)をモデルにベルギーのマーネが製作したもの。楽器の特性を活かした、小倉の細やかなタッチに耳を澄ませたい。(飯田有抄)輪舞[ロンド]〜モーツァルトの輝き/小倉貴久子モーツァルト:◎クラヴィーア・ソナタニ長調KV311 ◎同イ短調KV310 ◎同イ長調KV331「トルコ行進曲付き」 ◎ロンドニ長調KV485 ◎同イ短調KV511小倉貴久子(フォルテピアノ) 人気ヴァイオリニスト奥村愛の待望の新譜は、誰もが一度は耳にしたことがある名曲を集めた珠玉の小品集。彼女の朗らかで清潔な表現に合った13曲は、何度聴いても飽きがこない。冒頭のエルガー「朝の歌」の滋味に溢れた歌は、まさにその好例だ。また、後半の邦人作品(渡辺俊幸、辻井伸行、加古隆)では、作品への共感と愛が自然な語り口で滲んでいるのも聴きどころ。そして、最後のチャップリン「スマイル」。言わずと知れた名画『モダン・タイムス』のテーマだが、「笑っている限りは明るい明日が常にある」という原曲の歌詞を、素直にヴァイオリンで表現した心温まる演奏だ。(渡辺謙太郎)With a Smile〜微笑みをそえて/奥村愛◎エルガー:朝の歌 ◎ブラームス:瞑想曲(ハイフェッツ編曲) ◎ドヴォルザーク:スラヴ幻想曲(クライスラー編曲) ◎フバイ:ヘイレ・カティ ◎サン=サーンス:アヴェ・マリア ◎チャップリン:スマイル 他奥村愛(ヴァイオリン)加藤昌則(ピアノ) バラードでは、テンポと強弱そして音色を繊細に操り、聴き手を自然にショパン作品の深部へと引き寄せていく。時に大胆に、時に切ないほど優しく繰り出される音楽の“振り幅”は、もしかするとショパン自身の感情の起伏そのものかもしれない。後半は一転して、リストによるシューベルトやワーグナーの編曲作品が並ぶ。シューベルト作品はピアニスティックな表現を駆使しつつも、原曲の“うた”を常に意識させるもの。最後に置かれた「イゾルデの愛の死」はスケールの大きさに圧倒される。数々の名録音を生んできたイエス・キリスト教会で収録されたサウンドも切れ味抜群だ。(大塚正昭)ショパン:バラード/河村尚子◎ショパン:バラード第1番〜第4番 ショパン(リスト編):◎乙女の願い ◎いとしき娘 シューベルト(リスト編):◎ます ◎糸を紡ぐグレートヒェン ◎水車職人と小川 ワーグナー(リスト編):◎イゾルデの愛の死河村尚子(ピアノ) ロン=ティボー、エリザベートの両国際コンクールで2位を獲得した俊英のソロ・デビュー盤。1992年生まれの彼は、現在演奏活動をしつつパリ音楽院で学んでおり、本作もそのフランス指向を反映した構成が成されている。サン=サーンスの冒頭から妖艶ながらも凛とした音や節回しが耳を奪い、フランクもジューシーな音色と毅然たる表現で惹き付ける。あまり演奏されないフォーレのソナタ第2番は濃密で光輝な熱演。同曲は特に聴きものだ。ハイレベルの技術はもとより、日本人のデビュー盤には稀な内容と全体に漂う気高さが、今後への期待を大きく膨らませる。(柴田克彦)成田達輝デビュー!/成田達輝◎サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ ◎フランク:ヴァイオリン・ソナタ ◎フォーレ:同第2番 ◎パガニーニ:カプリース第1番成田達輝(ヴァイオリン)テオ・フシュヌレ(ピアノ)収録:2013年3月、相模湖交流センターコジマ録音ALCD-1142 ¥29402013年9月、サラマンカホールエイベックス・クラシックスAVCL-25791 ¥3150収録:2013年7月、ベルリン、イエス・キリスト教会ソニーミュージックSICC-10191 ¥3000収録:2013年5月、Hakuju Hallソナーレ・アートオフィスSONARE1019 ¥2520CDCDCDSACD
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