eぶらあぼ 2013.12月号
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この人いちおし184【CD】『日本語で歌うオペレッタ名曲集』日比野景(ソプラノ) 浜川 潮(ピアノ)◎ヴィリアの歌〜レハール:《メリー・ウィドウ》 ◎青い塔(パゴダ)のサロンでは〜レハール:《微笑みの国》 ◎チャールダーシュ=故郷の響きは〜J.シュトラウスⅡ:《こうもり》 ◎彼の面影〜フスカ:《男爵令嬢リリ》 ◎聞こえる! ジプシー・ヴァイオリン!〜カールマン:《伯爵家令嬢マリツァ》 他全18曲Beltaレコード YZBL-2801 ¥2800【Concert】★12月26日(木)・清瀬アミューホール、2014年5月3日(土・祝)・池袋/自由学園明日館 問:及川音楽事務所03-3981-6052日比野 景 (ソプラノ)Kei Hibino日本語オペレッタの美しさをぞんぶんに 字幕システムが普及した最近は「オペラは原語で」が当たり前だが、オペレッタの場合、台詞で劇が進行するという事情もあって、日本語訳詞による上演も多い。その楽しさ・面白さに注目したアルバムをリリースしたのが、ソプラノの日比野景。タイトルは、ずばり『日本語で歌うオペレッタ名曲集』。 「学生の頃から『絶対にオペレッタをやりたい』と思っていました。15年ほど前、日本オペレッタ協会の《メリー・ウィドウ》に、最初はコーラスのオーディションを受けて参加させていただいて以来、協会の公演ではさまざまな役をいただきました」 日本オペレッタ協会は、1977年の創設以来、数多くのオペレッタを日本に紹介してきた。今年いったん活動を休止したが、その実績はとても貴重。 「(協会の創設者で芸術監督の)寺崎裕則先生は日本語上演をすごく大切にされていたので、私も多くのことを学ばせていただきました。お客さまにわかりすいのはもちろんですし、自分の理解も深まります。外国語の意味を頭で理解して歌うのとは違いますね。私は海外留学の経験もない、純日本育ちなので(笑)。ただ、原語のほうが音楽が自然に流れやすい場合もあるのは確かですよね」 アルバム中4曲の訳詞を自身で手がけた経験からも、その難しさを実感した。 「言葉とメロディのどちらを優先するか迷うことがあり、このCDの中でも、迷った結果メロディのほうを取った箇所もあります。言葉を立てようとするあまりに音楽が途切れてしまうのはもったいないですから。それは、歌い手としてずっと感じていたことでもあります。言葉とメロディがなるべく自然に合致するように、悩みながら言葉を選んだ甲斐あって、わりに流れるようにできたのではないかと思います」 収録曲の多くは故・滝弘太郎の訳詞による。前述の日本オペレッタ協会の公演のために生まれた名訳詞の数々だ。 「言葉がどれも美しくて素晴らしいですし、滝先生は男性なのに、女性の気持ちがよくわかっていらっしゃることに驚かされます」 プロフィールでは自らを「歌役者」と名乗っている。 「寺崎先生がずっとおっしゃっている言葉です。名乗っているうちに、もしかしたら中身も伴ってくるかもしれないという気持ちを込めて、使わせていただいています。コンサートなど、演技なしで歌う時でも、お芝居の要素を感じ取っていただけたらいいなと。ですから本当は、すべての歌手はみんな歌役者なんですね」 「そんな思いを込めて歌い演じたアルバムは、《こうもり》や《メリー・ウィドウ》などの有名曲はもちろん、ハンガリーの人気オペレッタ作曲家イェーネ・フスカなどの、マニアックな作品までヴァラエティに富んでいる。 「フスカは、日本でほとんど演奏されていないかもしれませんね。実は、一番最後に置いた大好きなカールマンの《伯爵家令嬢マリツァ》まで、曲順は、全体がひとつのドラマになるように音楽の進行を考えて作り込んでありますので、それを感じ取っていただけたらと思います」 演出や芝居が目に見えるわけではないCDでも、なにかしらのドラマを浮かびあがらせたい。「歌役者」の資質ゆえのコンセプトなのだろう。少し先だが、来年5月には発売記念リサイタルも予定されている。「作るのが趣味」という手作りの小道具を使ったり、ダンスなども交えての、凝った楽しいコンサートになる模様。「歌役者」の面目躍如の予感がする生のステージにも期待したい。取材・文:宮本 明
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