eぶらあぼ 2013.11月号
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55 インド哲学の粋を極めた大叙事詩『マハーバーラタ』の第6巻にあたる『バガヴァッド・ギーター』。ヒンズー教での幻影の力「マーヤー」を超越し、絶対的な存在である聖バガヴァッドに近づくことで、解脱の境地に至ろうとする選ばれた戦士アルジュナ。その苦悩と決断。宇宙的な規模で神、人間、存在について問いかけるこのインドの聖典を原作にした西村朗の室内オペラ《バガヴァッド・ギーター(神の歌)》が11月に世界初演される。 「この企画は、東西の比較論などを展開してこられた北沢方邦(まさくに)先生からのご提案で始まりました。オペラは先生による原作台本をもとに先生と私が作成した作曲台本により、ギーターの言葉(日本語訳とサンスクリットの聖句)と音楽を通じて、聖典が教え示しているものをひとつの危機の時代である現代の視点でとらえることをめざしました」 編成はバリトン(2役)、メゾソプラノ、そして打楽器というユニークなものである。 「メゾソプラノの加賀ひとみさんに人類の選者としてのアルジュナ王子を歌ってもらい、松平敬さんに王子の友でもある御者・クリシュナと語り手役・サンジャナを担当してもらう予定です。松平さんは音域の広いファルセットなどでも歌ってもらうことになります。全体は9章構成で、クリシュナは神の化身として登場し、第6章『クリシュナの変容』、第7章『驚異の神姿への賛歌』が山場になっています。テーマ自体が深遠なので、重厚に沈むのを避けるため、コミカルな要素も付け加えようと考えています。歌手陣を支える打楽器アンサンブルは7人。上野信一さんのグループにご協力いただきました。指揮は現代音楽に精通した板倉康明さん。音楽は静と動が激しく入れ替わりますので、打楽器のもつ表現力の強靱さが生きてくると思います。金属、木製、膜製など極めてバラエティーに富んだ打楽器群が生み出す多彩で迫力あるサウンドにもご期待ください」 ところで今回の新作は「室内オペラ」と銘打っている。通常のグランド・オペラと今回の室内オペラとでは、西村自身の意識がはっきり異なるという。 「室内オペラというのは、日常の隣の、少し距離を置いたところで展開されるもので、大がかりなセットなどを使うことなく、情景を一変させて新鮮な体験をもたらすものととらえています。切り詰められた舞台上での表現により最大限の効果を生み出すことが大事になりますので、演出にも大きな比重がかかります。今回は演奏会形式ですが、妙味あるステージにしたいと思います。全体は70分ほどの作品になる予定です」取材・文:伊藤制子室内オペラ《バガヴァッド・ギーター》〜神の歌(演奏会形式)★11月23日(土・祝)・サントリーホールブルーローズ(小)●発売中問 東京コンサーツ03-3226-9755http://www.tokyo-concerts.co.jp神、人間、創造について問う壮大な物語西村 朗(作曲)インタビュー 音楽という枠組みすら遥かに超越した、瑞々しいステージが期待できそうだ。東京芸大卒業後、ギルドホールとジュリアードの両音楽院に学び、メキシコで華々しく活躍後、ニューヨークに拠点を移し、オリジナリティあふれる音楽を追求し続けているヴァイオリンの小澤真智子。作・編曲者としても活躍するピアノのオクタービオ・ブルーネッティと共演するステージでは、何とヴァイオリンを演奏しつつ、脚でステップを踏む“真智子発タップヴァイオリン”を披露する。バッハ「無伴奏パルティータ第3番」からのガボットとロンド、ピアソラ「リベルタンゴ」、グラナドス「スパニッシュダンス」など多彩な名曲タップという新たな表現を纏った名曲小澤真智子(ヴァイオリン)&NYアーバンタンゴたちが、タップという新たな表現を纏うことで、果たしてどう変貌するのか。小澤は「タップヴァイオリンはメキシコ時代、南米の太陽と風と大地に育まれ、次第に心が解放されてゆく中で開発しました。音楽もダンスも、人間の魂の本源から流れ出た兄弟姉妹なのでしょう」とコメントしている。文:笹田和人★11月10日(日)・有楽町朝日ホール(コンサートイマジン03-3235-3777)11日(月)・鎌倉芸術館(小)(MOミュージック企画0467-44-1443) ●発売中左:小澤真智子 右:オクタービオ・ブルーネッティPhoto:大窪道治

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