eぶらあぼ 2013.11月号 53/209

eぶらあぼ 2013.11月号
53/209

50 クン=ウー・パイクは、1946年韓国生まれ。82年以降パリを拠点に活躍する、アジア出身国際派ピアニストの先駆けであり、デッカやグラモフォン等でのCD録音も数多い、現役屈指の大家だ。昨年4月トッパンホールにおけるベートーヴェン&ブラームス・プログラムで圧倒的名演を残したパイクが、11月再び同ホールに登場。今度はシューベルト・プログラムを披露する。これは「温かく豊かなホールの響きに加えて、お客様との交信が非常に素晴らしかったので提案した」と語るスペシャルな一夜だ。 しかも単なるシューベルト特集ではない。「即興曲集D899」全4曲、「3つのピアノ曲D946」全3曲、「楽興の時D780」からの3曲を並べ替えて再構成した、約80分ひと続きのいわば“連作小品集”。聴く者を感嘆させたCD『ブラームス小品集』のシューベルト編である。 「私は、有名曲をただ並べるのではなく、作曲家のマインドに入り込んで、よりよい作品を選ぼうと考えています。そして、例えばショパンの曲集なども同様ですが、こうした小品集は番号順に弾くのではなく、曲に対する正しい価値観を追求した上で、演奏順を考慮しなければならないと思っています。ましてシューベルトが、出版者の並べた曲順通りの演奏を意図していたとは思えません。そこで、この作品の次には何が来るべきか?を吟味し、自然な流れを作り出すことを意図しました」 再構成のコンセプトは明確だ。 「今回企図したのは“歌曲のツィクルス”のような形。最初から最後まで歌曲的な側面やドラマ的なコントラストを有し、お互いが相乗効果を発揮するプログラミングです。以前私の先生はこう言いました。『プログラムを作るときには、音符同士が愛し合い、惹かれ合うものを選ぶべきだ』。今回もまさにそうです」 パイクは以前、「ある作曲家に取り組む際には、全作品の楽譜を集めます」と話していたが、当然「シューベルトも然り」。つまり今回の演目は、膨大な作品群から独自の審美眼と感性によって選び抜かれた逸品集なのだ。実際に曲をパイク考案の順番通り聴いてみると、すべてが自然に耳に届き、全体が1つのドラマのように感じられる。 彼はシューベルトの魅力をこう語る。 「抒情的でポエティカル。彼は私生活でも詩人に囲まれており、その音楽には詩に触発されたロマン的な美学があります。そして大きな魅力は、美しさを無理して引き出すのではなく、自然に差し出してくれるところです」 類い稀な実力者ながら、主にピアノ通の間でばかり評価されてきたパイクの魅力を、ロマン溢れるこのリサイタルで、より多くの人に知って欲しいと願わずにはおれない。取材・文:柴田克彦アジアの感性―多彩な才能とその多様な可能性ー5クン=ウー・パイク ★11月8日(金)・トッパンホール ●発売中問 トッパンホールチケットセンター03-5840-2222 http://www.toppanhall.com音符同士が愛し合う唯一無二の抒情小品集クン=ウー・パイク(ピアノ)インタビューマークのある公演は、「eぶらあぼ」からチケット購入できます(一部購入できない公演、チケット券種がございます) 東京文化会館の人気シリーズで、魅力的な演奏家と東京都交響楽団が共演する《響の森》。今回は、指揮者の沼尻竜典とピアニストの小菅優をゲストに迎え、新年の幕開けを高らかに祝うニューイヤーコンサート。共にドイツでも活躍する実力者2人がプログラムに選んだのは「オール・チャイコフスキー」。「エフゲニー・オネーギン」よりポロネーズ、ピアノ協奏曲第1番、そして交響曲第5番と、重量級の名曲が並ぶ。協奏曲でソロを弾く小菅は、この作品について「ただ派手で綺麗なだけでなく、管楽器との対話など、室内楽的な要素も魅力。外は極寒でも人々の心は温かいというロシアの民族チャイコフスキー作品の深層に光をあてる東京文化会館ニューイヤーコンサート2014 《響の森》Vol.34性を表現したい」とコメント。一方、ロシア音楽に造詣が深い沼尻も、「チャイコフスキーには独特の視線の鋭さと狂気があり、演奏者はそれに負けてはいけない」と語る。3曲いずれにおいても、音楽の深層に光をあてながら、繊細で複雑な感情の綾を描き出してくれることだろう。文:渡辺謙太郎★2014年1月3日(金)・東京文化会館 ●発売中問東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 http://www.t-bunka.jp沼尻竜典小菅 優ⒸMarco BorggreveⒸ藤本史昭

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です