eぶらあぼ 2013.11月号
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41 1990年のチャイコフスキーコンクール優勝以来たびたび来日を重ね、最近ではラ・フォル・ジュルネ音楽祭の常連としてもお馴染みの、ボリス・ベレゾフスキー。がっちりとした体躯から繰り出される音はとにかく豊かで、しかし作品によっては驚くほど繊細な表現を聴かせてくれるピアニストだ。今回のプログラムは、彼のピアノが持つ、柔と剛、両方の魅力を存分に味わうことができる充実したもの。 前半は、彼の真骨頂が発揮されるラフマニノフ。ロシアのピア二ズムを継承し、作曲家自身と同じく大きな手を持つベレゾフスキーが描き上げる、ラフマニノフの世界。ピアノソナタ第2番は特に楽しみだ。力強い冒頭の音楽、猛々しさと哀愁が交錯しながら展開する物語を、生命力に満ちた音で再現してくれるに違いない。 そして、後半のフランスものにも注目したい。ドビュッシーの前奏曲集第1巻では、骨太な音、キレの良いリズ柔と剛のピアニズムボリス・ベレゾフスキー (ピアノ)ム感、それに深みのある色彩感覚が調和した、男性的な色香をたたえる音楽が期待できる。新しいドビュッシーを見せてくれるだろう。 一方、ラヴェルの「夜のガスパール」で発揮されるのは、ここまでとはまた一味違った彼の音楽性。ふんわりと柔らかい音、暗く深いトンネルにこだまするように響く音。光と影を克明に描き分ける演奏から、ベレゾフスキーが内に持つ繊細な感性を堪能することができる。 ベレゾフスキーの多様な魅力、そして作品自体の新たな魅力を発見する演奏会になりそうだ。文:高坂はる香★11月20日(水)・東京オペラシティ コンサートホール●発売中問カジモト・イープラス0570-06-9960 http://www.kajimotoeplus.com他公演11/17(日)・佐倉市民音楽ホール(043-461-6221)、11/23(土・祝)・京都/青山音楽記念館バロックザール(075-393-0011)、11/24(日)・横須賀芸術劇場(046-828-1602)ⒸDavid Crookes/Waner Classics 新しい世界の開拓には、理屈抜きの面白さがある。分かりにくいと思われがちな現代音楽だが、会場に足を運べば実は盛況ということも少なくない。若手作曲家として世界的に活躍する藤倉大が、今年Hakuju Hallで行った《アート×アート×アート》も映像作品とのコラボなど、見どころ満載で好評だったようだが、来年2月に同ホールがニューヨークから招くのは、その藤倉との緊密な協業でも知られるインターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル(ICE)だ。 現代音楽には決まった形式はなく、長さ、スタイル、編成、どれも様々だ。新しいサウンド・シーンを体感インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブル at Hakujuだから演奏には作曲家の難題に自在に応えられるスペシャリスト集団が必要となる。パリでブーレーズが設立したアンサンブル・アンテルコンタンポランは有名だが、2001年に設立されたICEはディレクターのフルーティスト、クレア・チェースが演奏に加え企画面でも縦横無尽に活躍、多くのプロジェクトを成功に導き、いまや同団をアメリカを代表する団体へと育て上げた。500以上という初演曲、数々の受賞歴、そしてCDのリリース数が、その偉業を物語っている。 今回の公演には音響のよいHakuju Hallの特性を生かし、4人の木管奏者と打楽器奏者の計5人が登場、ソロから電子楽器とのアンサンブルまで8曲を披露してくれる。うち半分は、ロンドン在住の藤倉が彼らとスカイプを使い、大西洋をまたいで連携しながら仕上げた作品だ。こうした創作プロセスも、音楽に斬新な息吹を与えているかもしれない。作曲家と演奏者の最高のコラボが切り拓く、新しいサウンド・シーンに耳をすませようではないか。文:江藤光紀★2014年2月25日(火) ・Hakuju Hall ●11月16日(土)発売問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700http://www.hakujuhall.jpクレア・チェースⒸDavid Michalekジョシュア・ルービン(クラリネット)ニック・マスターソン(オーボエ)レベッカ・ヘラー(バスーン)ナタン・デイヴィス(パーカッション)

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