eぶらあぼ 2013.11月号
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 自宅音楽室について、永田音響の永田穂先生に電話をかけた、というところからです。世界中のコンサートホールの音響を作られた大御所に、個人の音楽室相談などして今更ながらに恐縮している僕に対し、当時すでに80歳を超えられていた永田先生は、実にはつらつとしたお声で「なんでも相談してください!」と仰ってくださいました。それに甘えて僕も札幌から建築士を連れて東京は本郷の会社に伺い、図面を見ていただき、施工中の現場もチェックしていただきました。おっしゃられたことはそれ程多くはなく、簡潔明瞭に要点をお示しいただきましたが、後日、性能チェックをしていただいたときに「周波数特性、残響や防音性能などほぼ想定通りにできた音楽室だと思います」と仰っていただき、また何より、自分でピアノを弾いていてまったく嫌にならない音楽室ができました。まさに達人のアドバイスだったと感じ入りました。話は脱線しますが、高校時代古文で「徒然草」の“仁和寺にある法師”を勉強しました。初めて石清水八幡にお参りをした法師が、その一部を見ただけなのに本殿と勘違いし、ありがたがって帰ったことを挙げ、どんなことにも適切なアドバイスをくれる人というものが欲しいものだ、と結んでいます。そのくだりを思い出し、「すこしのことにも先達はあらまほしき事なり」の思いを実感した次第でした。 さてそこで、永田先生にいただいた数々のお言葉を反芻してみるに、おっしゃったことは大体5つくらいに収束するのではないかと思い、5ヵ条にまとめてみました。それを永田先生にお示ししたところ、「よくまとめてくださいました」と仰っていただき、公開することを快諾くださいましたので、書いてみたいと思います。解説は素人の僕の理解で書いていますので、若干適当ですが、大きくは間違っていないものと考えています。ちなみに、サイズとしては10~20畳程度を想定しており、それ以下のサイズだと吸音材を使うよりも、家具の置き方などの方が、音質に影響する場合もある、とのことでした。〈原則1 壁は固く〉 音波というものは空気の振動で、特に低音のゆったりとした空気の動きは薄い壁に共振を起こしやすく、楽器の音に加えて壁の鳴りが加わってボケた低音が生じる危険が出てきます。木造ですと、柱の内側に通常12ミリとか15ミリ程度の石膏ボードなどを張った上に壁紙などの内装材を張ります。 しかし永田先生いわく「そんなものは無いです」ということで、12ミリ4枚張りか、15ミリ3枚張りを提案されました。拙宅では15ミリ3枚張りにしましたが、石膏ボードだけで厚さ5センチ弱となり、確かにぐっと固い壁ができました。石膏ボードの厚さ4センチ以下だと変な共振音が生じうるそうで、この辺はしっかりと守った方がよいようです。〈原則2 床もしっかりと〉 床は根太と呼ばれる構造材の上に合板などを張り、その上に床材を取り付けますが、この合板+床材の厚みを、木材で4~5センチと指定されました。合板2枚+2.5センチ程度のムクの木製床材でこれはクリアできます。しっかりと言ってもコンクリートのままだと反響のせいかよい音になかなかならない、やっぱり木がいいですね、というのが永田先生のお言葉でした。文:上杉春雄#25 木造音楽室設計の基本5原則 その2information上杉春雄 デビュー25周年記念コンサート 《時を聴く》曲/J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ/クセナキス:ヘルマベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番/ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3楽章/ショパン:ピアノ・ソナタ第3番★10月28日(月)・紀尾井ホール★11月 2 日(土)・兵庫県立芸術文化センター(小)問:音楽事務所サウンドギャラリー03-3398-5631※詳細はWEB(www.uesugi-h.jp)でご確認くださいphoto by Takahiro Hoshiai1988年にサントリーホールでデビュー・リサイタルを行い、東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)より4枚のアルバムを発売。オーケストラ・アンサンブル金沢、東京フィル、読売日響などのオーケストラや、池辺晋一郎、川本嘉子らと共演、NHK「芸術劇場」でも活動が紹介される。バッハの平均律全曲演奏会は高い評価を得た。東京大学大学院修了。医学博士。HP:http://www.uesugi-h.jp/うえすぎ・はるお195

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